152話 第三章 第二節 内線
翌日。すでに太陽の光は真上から射しているようだ。窓から入る光は少ない。
「わぁーあ」
ショウが大きなあくびと同時に伸びをした。やはりあの、ユウの香り事件のあとはなかなか寝付けなかった。無理もない。すごく魅了される香りを無視など出来ない。
ショウがベッドから起き上がると、何をしようかと考えた。現在、独房と化した宿屋の一室。ここからショウは外に出ることが出来ない。現在、レベル40を超える者の動きが制限されている。厳密に言えば制限どころか規制の域だ。まったく活動が出来ない。
今までは偽装マントを使うことでレベルを誤魔化し、レベル40として活動することが出来た。しかし、昨晩ミサキに偽装マントを取り上げられてしまった。今ショウは偽装マントと同等の効果を発揮しているここの部屋のみが活動範囲だ。ショウはこの部屋から出ることが出来ない。軟禁されていると言っても過言ではない。
ショウは徐に壁へと歩みを勧めた。
「ミサキのやつ、ダーツも持っていったのか?」
ショウはこの部屋から出ることが出来ない。娯楽は部屋の中にある物のみ。ダーツだって立派な娯楽の一つだが、昨日まで壁にあったはずのダーツが見当たらない。ショウはため息を付いた。
昨日ミサキに何を言われたのかをショウは冷静に思い出す。その記憶を頼りに、ショウはメニューリストを開いた。ショウの目の前に画面が現れると、その中のフレンドリーコールを選択する。連絡先はフロントだ。別にコンシェルジュとは友達というわけではない。宿屋に泊まると内線という形で勝手に登録される。チェックアウトすればなくなる。簡単なシステムだ。
「出前をお願いしたいんですが」
ショウがフロントに出前を頼むことにした。ミサキの教えに忠実だ。あとはカツ丼を頼むだけだ。
『はい、メニューをお持ちしましょうか?』
聞き覚えのある声で返事があった。今日の担当は女性のようだ。昨日は確かに男性だった。
「あれ? 今日は男の人じゃないのか? この前の人か」
ショウは、またしばらくは男性がフロントを務めることを聞いていたのを不思議に思い質問した。
『はい、今日と明日は私が勤めさせていただきます。この前と言われましても、今日が始めてですが……』
ショウは聞き覚えのある声で間違いないと思った。しかし、本人が始めてだと言うのであればそれが正しいのだろう。今朝からおかしいことが続いている。
『お客様? どうされませたか?』
「あっ、あぁ。何でもない」
『出前は、どうされますか?』
「あとにする。また連絡します」
『では、お待ちしてます』
ショウはフレンドリーコールと言う名の内線を切断した。
「うーん」
ショウが考え込む。不思議なことが立て続けに起こっていたからだ。ショウは唸るばかりで何も浮かばない。ミサキが来ればすぐにでも分かるだろう。しかし、まだミサキの姿はない。考えても埒が明かないとショウは思い。もう一度ベッドに横たわる。またしてもユウの香りに包まれながら眠りに付いた。