151話 第三章 第一節 呪いの指輪
「うぅぅ……、うぅぅ……」
ショウのうめき声が宿屋の部屋に響く。
日が上るにはまだ早く、ショウの借りている部屋は月明かりのみで薄暗い。宿屋の部屋にある二つのベッドの一つ。そこでショウが大量の汗をかきうなされえている。よほどの悪い夢を見ているようだ。
「ユウ、近くに来るな……」
ショウの寝言からするに、夢の中にユウが登場しているようだ。
「だから、近づくな……」
そう口にした途端、ショウが飛び起きた。
「ゆ、夢か……」
ショウの呼吸は荒く、顔を手で押さえた。夢であったことにホッとし、ため息のように息を吐き出した。しかし、なぜユウが夢に現れたのだろうか。
「げっ。この布団、ユウの匂いが……」
答えはすぐに分かった。ユウの香りが原因だった。
ユウの香りがショウの鼻腔をくすぐる。香りと言ってもユウのいつも付けている香水のことだ。甘い誘われるような香り。
しかし、このおかしな状況にショウの目は点となる。確かに昨晩寝る時には気が付かなった、しかし、今、確かに布団からはユウの付ける香水の香りがする。
ショウがハッとする。まさかと思い、恐る恐る自分の布団を捲り上げていく。もしショウの推理があたっていたとすれば、そこにその存在が確認できるはずだ。
「だよな……。誰もいないよな」
ショウの予想は外れた。ユウはベッドに入り込んではいなかった。
「まさかな……」
ショウが隣のベッドへ視線を移した。ここに隠れているのかもしれないと。ショウはベッドから出ると、隣のベッドに歩み寄る。そして、隣のベッドの布団を勢いよく捲った。
「こっちも空振りか」
布団を捲くるとユウの香りがふわっと広がった。しかし、そこにはユウの姿がない。ショウの予想は二度も外れた。しかし、なぜユウの香りが残っているのか、不思議そうにショウが唸る。
確かに3日前はユウがマーキングのためか、香りを残していた。しかし、すでにベッドメイキングも行われている。ユウの香りが残っているはずなどない。残っていないのなら、新たに付けるしか無い。しかし、いつ、どうやって。
「まだ、夜明け前か」
ショウは窓の外を見る。まだ薄暗い。もう一眠りしようとショウは思った。
「まぁ、しょうがない」
ショウは仕方がなく諦めた。この部屋から出られない。どちらかのベッドで朝を迎えなければならない。しかし、両方ともユウの香りがする。
ショウはユウの香りに包まれながら寝ることにした。香りに意識をすればするほど眠気が遠のく。しばし眠れぬ時間をベッドのなかで過ごすショウは、弱ったなと言わんばかりに左手で頭を掻いた。左手に付けられた5つの指輪が月明かりを反射させ、キラリと光った。