149話 第二章 第十八節 マントの没収
ツバサが浴室から姿を現した。赤くなったマントと、いつもの戦闘服に身を包み、青髪をタオルで拭きながらの登場した。蒸気を纏ったツバサの姿の顔は赤い。
「ショウ先輩? 話って言うのは……」
ツバサが頭を拭くタオルを下ろしながら口を開いた。
「ツバサちゃん。それはね、マントを返して欲しかったからよ」
ツバサがキョトンとなった。人間、想定もしていないことを言われると脳が追いつかないと聞く。まさにツバサがその状態だ。それほどまで想定をいないことを言われたのだろう。
「……。へ?」
ツバサは、可愛らしく首傾げた。やはり何を言っているのか理解できないようだ。
「マントを返してって言ったのよ」
ミサキが再度ツバサにマントを要求した。今度は言葉だけではなく、手を差し出しての要求だ。
「何でですか?」
ツバサも、トウカやユウ同様、同じ質問をした。
「ショウ君が森を燃やしたことが新聞に載っちゃったの。しばらく、罰としてショウにゲームを出来ないようにするためよ」
ミサキは、さきほどの反省を元に、ゲームが出来ないようにすると言葉を濁した。
「でも、森を燃やしたのはユウさんですよ! ショウ先輩は悪くないですよ」
ツバサは一部始終を目撃していた。ユウがショウの炎の杖を使って森を燃やしたことも。その後、ショウの炎の杖をこっそりアイテムボックスにとしまおうとしたところまでしっかりと見ていた。
「ショウ君? それ本当なの? ユウちゃんがやったの?」
「どっちでも、いいだろ?」
ショウは、ミサキの質問に曖昧な回答をした。
「ショウ様、もういいですわ。わたくしがやりましたわ」
「ショウ君? 何で、嘘言ったのよ。どおりでショウ君からは魔法の反応が出なかったのね」
ミサキは運営であり、この世界の神的存在だ。過去にショウが炎の杖を握ったことすらすぐに分かった。魔法を使えばバレないわけがない。
「まぁ、どっちでもいいじゃないか?」
「良くないよ。どうして、ユウちゃんをかばおうとしての?」
「ん? ユウが前にな、お前のこと友達って言ったんだ。珍しくてな。仲が悪くなるといけないと思ってな」
「そんなこと? 別にそんなことでユウちゃんを嫌ったりしないし」
ミサキが呆れ顔で言う。本当にどうでもいいような顔だ。
「ショウ様……。 お気遣い、感謝いたしますわ」
ユウは目頭を抑えた。ユウの琴線に触れたのだろう。
「ユウさん、嘘泣きはやめてください。私だって泣きたいんですからっ!」
ツバサがユウに言う。ツバサ自身も泣きたいことがあるようだ。
「雑魚には失礼しちゃいますわ、もうっ」
「雑魚って言わないでくださいっ!」
ツバサが歯をむき出しに、イーっとした。いつもより抗議が激しい。ツバサがユウに当たる。
「はいはい、そこまでよ」
ミサキが手を叩きながら、ユウとツバサの間に入る。
「ミサキさん、何ですか?」
「ミサキよ、止めないでほしいですわ」
ツバサもユウも言いたいことがあるようだ。
「喧嘩はともかく、ツバサちゃん、マントを出してもらえる。あとトウカちゃんも」
「いやです」
ツバサが拒否する。
「いやだわ」
トウカも拒否する始末だ。
「じゃあ、あなた達、二人はログイン禁止にします。マントだけ出せばログインの制限だけはしないでおこうと思ったんだけど?」
ミサキが不適な笑みを浮かべる。従属関係に置ける上位をミサキが表した。
「私、マントが無いと外に出られません。だから返したくないです」
「あたしは、マントが無くても外で歩けるけど、炎の剣を持てなくなるのはいやだわ」
二人は各々の不満を漏らした。すると、ミサキがわれやれと首を横に振った。二人とも分かってないんだから、と言わんばかりだ。
「じゃあ、あなた達はログイン停止にするから。|ショウ君に会えなくなる《・・・・・・・・・・・》けど、いいの?」
ミサキが意地悪そうな顔をして言った。それを聞いた瞬間、トウカとツバサの顔色が曇り慌て出す。すかさず二人が動きを見せた。アイテムボックスを漁っているのはトウカ。肩からマントを下ろすのはツバサだ。ミサキの一言は二人にとって効果覿面のようだ。
「はい、二人共、お利口さんね」
ミサキが赤いマントを受け取ると笑顔で言った。トウカとツバサは不満げな表情を浮かべた。