14話 第三章 第四節 NPC
ショウとトウカがダンジョンに向かうため、町の広場を横切ろうとした時だ。
「あれ、トウカちゃーん」
聖職者姿の少女が声を掛けた。
「あれ? ケイ、どうしたの?」
「はい、ちょっと見かけたので声を掛けちゃいました」
ケイと呼ばれる少女がにこりと笑った。
「何でまだログインしてるのよ?」
「ログインって何ですか?」
ショウとトウカが顔を見合わせた。いくら初心者だからと言い、ログインとログアウトを知らない訳がない。ショウは、もしかしてと思いトウカの耳元で小声で話し始めた。
「この子ってお前のフレンドリストに入ってるか?」
すると今度はトウカがショウの耳元で話し始める。
「入ってるけど、それが何?」
ショウとトウカがヒソヒソ話をしているのをケイは不思議そうに見ていた。そんな中、またしてもショウはトウカの耳元で小声で話した。
「ちょっとお前のフレンドリスト見せてくれよ」
すると、トウカは少々不機嫌そうではあるがフレンドリストの画面をショウに見せた。
「このケイって子、この子だろ? 灰色文字だぞ」
ショウはフレンドリストを指差しながら、トウカに言う。
「あっ、ホントね。どういうこと? そこにいるのにログインしてないの?」
ショウはまたしてもトウカの耳元で聞いた。
「このケイって子、リアルでも友達なのか?」
ショウの一言にトウカの眉間にシワが出来た。
「ちょっと! あんたはあたしよりケイのほうが良いって訳っ!」
何やらトウカは怒り心頭のようだ。ショウは、何だか分からないが怒っているトウカをなだめる。
「落ち着けって、何を言ってんだよ? ちょっと知りたいことがあったから確認のためだ」
「じゃあ、何なのよ?」
トウカは納得が出来る回答を脅し取ろうかのように険しい顔つきをした。
「そのケイって子、本当にログインしてるかどうか試したかったんだよ」
「分かったわ。ケイに手を出さないでよ。ケイは学校のクラスメイトよ」
トウカ自身、全てを納得している表情はしていないが質問に答えた。そして、ショウはクラスメイトだと聞いた時に、試したいことが思い付く。
ショウはケイの前に移動し話しを始めた。
「ケイさん、はじめまして。トウカの友達のショウです。よろしく」
まずは簡単な挨拶だ。紳士のたしなみだ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ここからがショウの本題だ。
「明日は何かする予定ありますか?」
ショウが質問をするとショウの背後ではトウカの顔が般若の形相となっていた。
「明日ですか? 昼間は狩りに行こうと思っていました。それがどうかされました?」
ショウは今の会話からヒントを得たようでトウカと話をしようとする。
「て、お前。どうしたんだ? 顔が怖いぞ」
「あたしを出しにしてケイをデートに誘うってことねっ!」
「違うって、よく聞けよ。お前は明日学校があるんだよな?」
トウカは怒りながらではあるが答えを返してきた。
「もちろんあるわっ!」
「でも、このケイって子、明日は狩りに行くみたいだぞ。ずる休みする子なのか?」
不思議そうな顔をするトウカが答える。
「皆勤賞ってことはないけど、まじめに学校に来る子よ」
「じゃあ、このケイって子、NPCって考えたほうが正しいんじゃないか?」
ショウは、とんでもない発想に行き着く。今までプレイヤーが操っていたキャラがNPC化しているという仮説だ。
「そんなことありえるの!?」
トウカが唖然とした。
「とりあえず、このケイって子と連絡が取れるようにアジトみたいな場所を聞いておいたほうがいいんじゃないか?」
「そうね、ちょっと聞いてくる」
そうトウカが言うと、トウカはケイの方へ駆け出した。
「ケイっていつもどこにいるの?」
「私ですか? 私は……」
ケイはポケットからメモを取り出し、現在住んでいる家の住所を書き留めた。
「私、ここに住んでますよ」
「そうなの? いつ行っても会えるの?」
「あまり遅いと私、寝ちゃうんで、夜遅くは無理だけど夕方なら大丈夫」
トウカとケイの話しを聞きショウは思った。やっぱりNPCじゃないのかと。夜寝る時もログインするプレイヤーなど考えられない。ただし、ショウを除いての話しだ。
そして、トウカとケイは挨拶をして別れた。
「なぁ、トウカ? やっぱりおかしいだろ? ここの世界に住んでるみたいなことを言ってたぞ」
「そうね。話し方とかは本人そのものだけど、住んでるって言われると、気にはなるわね」
今、分かっていることは、ケイというキャラはこの世界に存在する。しかし、プレイヤーが操っている訳ではないということだ。
「それより早くダンジョンに行きましょっ!」
トウカの目的は憂さ晴らし。ケイとの会話で多少、落ち着きを取り戻してはいたが、盗賊に拉致された不満の解消には至っていないようだ。
そして、ショウとトウカは町の外れにあるダンジョン、プルトーマインに向かったのだ。