148話 第二章 第十七節 ヒソヒソ話
ミサキが入り口へと近づく。そして、ドアノブを掴むと勢い良く引いた。
「きゃっ!」
急に開いた扉からは、メイド姿のトウカが部屋へと転がり込んできた。
「痛た、たたた……」
トウカが自分の膝を撫でる。
「トウカちゃん、おかえり。待ってたよ」
ミサキは悪びれる様子も無く、トウカに“待ってた”と告げた。早くマントを回収したいのだろう。
「えっ、待ってたって? それにユウさんもいるなんて。ちょっと、どういうことなの?」
トウカの想像していたのと違う光景が広がっていたのだろう。トウカは混乱しているようだ。
「トウカちゃんにはマントを返して欲しかったから呼んだのよ」
ミサキが目的を告げると、トウカは目をキョドらせる。
「どうしても会いたいって、マントのことなの?」
「そうよ。そういえば来ると思ったから」
ミサキがニタニタ笑みを浮かべながら言う。悪代官が浮かべる笑みと瓜二つだ。
「何よ、あんた! そんな作戦に協力するなんてひどいわっ!」
トウカの怒りの矛先は、ショウへと移る。
「何だよ、作戦って? 会わなきゃ、マント回収できないだろう?」
ショウが素直に答えた。ショウには作戦の意味が不明なのだ。
「それでも、あのメッセージはないわっ! あたし、どれだけ緊張したと思ってるの。バカみたいだわ」
「あのメッセージって、何のことだ? 会わなきゃ、マントがもらえない。それだけだろ?」
「もう、いいわ。今思えば、あんたがそんなこと言うはずないもん」
トウカは、渋々ではあるが諦めたようだ。
「というわけで、トウカちゃん、マントを返してね」
ミサキが手を出す。マントを要求する手だ。
「どうして?」
トウカが理由を尋ねた。誰だって、突然マントを返せと言われたところで理解に至らない。
「さっき、ショウ君が森を焼いた事件が新聞に乗っちゃったのよ。これ以上、事態を深刻にしたくないの。ほとぼりが冷めるまでショウ君をこの部屋に閉じ込めることにしたの」
「閉じ込める?」
トウカが不思議そうに首を傾げた。
「おい、ミサキ」
ショウが慌てて、ミサキに駆け寄り耳打ちした。
「オレが、この世界から出られないことを知っているのは、ごく一部だ。トウカに心配を掛けさせないでくれ」
ショウの秘密を知る者は、この部屋ではユウとミサキだけだ。トウカにもツバサにも言っていない。
「そうね、心配は掛けれないわね」
ミサキが了承する。だが、マントの回収は諦めていないだろう。
「ねぇ、あんた? 何を話してるのよ」
トウカはショウとミサキのヒソヒソ話が気になるようだ。トウカに限らず誰だって気になる物だろう。
「何でもない。オレはレベル99だろ? マントなしだと、このゲームが出来ないって話だ。ログインしてもこの部屋の中だけだ。閉じ込められているのと同じだろ?」
ショウが、ゲームから出られないことをはぐらかすように言った。なかなか上手い言い回しだ。ユウ以外なら騙せるだろう。
「まぁ、そうね」
トウカも納得したようだ。これでショウの秘密は守られた。
「そういうことだ」
ショウとトウカがそんな話をしていると、浴室のドアが開いた。ショウは、浴室へ向かったツバサの存在をすっかり忘れていた。