147話 第二章 第十六節 二人の帰還
ショウはミサキに言われた通りメッセージを送り終えた。これで一息付けるかと思った時であった。部屋の扉が開かれた。
「た、ただいま戻りました!」
ツバサが部屋へと戻って来た。息を切らしているところを見ると走って戻って来たようだ。
「お、お帰り」
ショウはあまりに慌てたツバサの姿を見て動揺する。
「お帰り」
ミサキも続く。するとミサキの広角が動いた。楽しいことが始まることをほのめかす。
「あのー……」
ツバサが一言喋るとそわそわし始めた。何かに動揺、緊張しているかのようだ。そして、顔を赤くして俯いた。ツバサは下を向くとハッとする。突然、ツバサが襟元を手で引張り、鼻へと近づけクンクンする。
「シャワー、行ってきますっ!」
ツバサが急いで浴室へと消えた。浴室の扉がパタンとしまった。
「あいつは、急にどうしたんだ?」
ショウが不思議そうにミサキに尋ねた。
「ちょっと、効果が有りすぎたかも」
「何だよ、効果って?」
さっきから、質問ばかりするのはショウだ。女心に疎い。
「呼び出した方法よ。効果が有り過ぎたってことよ」
ミサキからの詳細な答えは得られなかった。その時だ、ミサキのフレンドリーコールが鳴り始めた。
「トウカちゃん、お城の方は終わったの?」
ショウには、トウカとミサキのやり取りは聞こえない。ミサキの話し声だけで察しなければならない。
「どうしたらいいかって言われても、ショウ君がどうしても会いたいて行ってるのよ。早く来なさいよ」
ミサキの口ぶりからするに、トウカは部屋に来るのを躊躇っているかのように聞こえた。
「何? 下にいるの? だったら早く上がっておいでよ」
トウカはどうやら下ににいるようだ。一階ってことだろう。
「おしゃれなんて、しなくてもいいよ。いつもの通りでいいよ」
トウカはおしゃれと言っているようだ。そういえばツバサも同じようなことを言っていた。おめかしがと……。
「早く、おいで、待ってるから」
トウカとのフレンドリーコールが終わったようだ。
「トウカは、何だって言ってたんだ?」
「下にいるそうよ。すぐに上がって来るって」
「そんなこと、会話からわかるが。それより何で、オレに連絡がないんだ?」
ショウがメッセージを送っている。それに対して返事をするのが普通だろう。しかし、トウカはミサキにフレンドリーコールをしてきた。ショウは、自分よりミサキのほうが信頼に値するかと思うと不安になった。
「ショウ君だから、連絡入れなかったのよ」
「そんなに、オレって嫌われてたか?」
またしてもミサキはため息を付く。
「ショウ様、わたくしは嫌ってませんわ」
今は、トウカの話だ。ショウはユウの横やりを受け流した。
丁度その時だった。部屋の戸の真鍮製のドアノブが回った。回した主はトウカだろう。すると、戸がゆっくりと、少しだけ開いた。戸の隙間からは、トウカが覗いているのが伺える。
「トウカか? どうしたっていうんだ?」
ショウが扉の向こうのトウカに話しかけた。すると、トウカは目をぱちぱちさせ、扉をパタリと閉めた。
「おい、ミサキ? あいつに何かしたのか?」
ミサキはため息を付くだけだ。
「私が、トウカちゃんを連れてくるから」
そういうと、ミサキが扉へと歩みを進めた。