145話 第二章 第十四節 ツバサの召喚
「ツバサちゃん? ショウ君がどうしても話したいことがあるそうよ。直接じゃないとダメみたい」
ミサキがフレンドリーコールで話を始めた。やはり繋いだ相手はツバサだった。フレンドリーコールはあくまで一対一で話す電話のような物。ショウには相手の受け答えまでは分からない。あくまでミサキの言っていることのみ聞こえている。
「は? 別にツバサに言う事なんて無いんだが?」
ショウが困惑する。ツバサに特に言うことなどない。だがしかし、ミサキは訳の分からない言い回しを用いた。ショウにしてみれば不思議でしかない。
「なぜ、私が連絡したかって? ショウ君は恥ずかしがり屋だから、背中を押したのよ」
ミサキはツバサの受け答えに反応したのだろう。ツバサが何と言ったのかは分からない。唯一分かることと言えばショウが恥ずかしがり屋の称号を得たことくらいだ。
「何で、オレが恥ずかしがり屋にならなくちゃいけないんだ?」
ショウ自身納得していない。どういう流れから恥ずかしがり屋という語彙が出てきたのか不思議でなら無い。
「別に、御粧しなんてしなくても大丈夫」
ミサキがまた謎の語彙を並べる。どうしたらそんな会話になるのかショウにはさっぱり分からない。
「すぐ来てほしいんだって。すぐでも伝えたいそうよ」
ミサキがフムフムと頷く。電話の前で会釈をする人と同類だ。ミサキも一応、社会人の端くれなのだ。
「ここで逃げたら、後悔することになるよ」
またもや訳の分からないことを言い始めるミサキ。どう話をしたら、恥ずかしがり屋から御粧し、そして後悔に繋がるのだろう。ショウにはチンプンカンプンの会話になっていた。
「大丈夫だから。じゃあ、部屋でね」
ミサキの言葉からするに、フレンドリーコールが終わったようだ。それくらいのことならショウにも分かる。
「で、ツバサは何だって?」
「すぐ来るみたいよ」
夢中になると周りが見えなくなるツバサ。そんなツバサがはいはいと戻って来るのをショウは不思議に思った。
「また、余計なこと吹き込んでないよな?」
ショウが疑惑の目をミサキに向ける。やはり通常ではあり得ないとショウは思ったからだ。
「余計なことも何も、ショウ君はこの場で聞いていたでしょ? それが全てよ」
「そりゃ、そうだ」
ショウも納得せざるを得ない。ミサキの言葉をショウは一字一句、漏らさず耳に入れていたからだ。
「ミサキよ。少しばかり我慢させていただきましたけど、あのような呼び方は、賛成できませんわ」
「ユウちゃんは、焼いてるのかな?」
ミサキがクスクス笑いながら茶化した。
「そんなことありませんわ」
ユウがそっぽを向いた。ユウの口ぶりからすると、先ほどのミサキのフレンドリーコールの内容を理解しているように聞こえる。ツバサの喋った言葉が分かるのかもしれない。何だかんだ言ってユウはツバサのことをよく知っている。
「じゃあ、トウカはどうするんだ?」
「それはね」
ミサキが奸計をめぐらせるような顔つきをする。悪巧み考えているに違いない。