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143話 第二章 第十二節 飴か鞭

「頼む。待ってくれ。悪かった」


 編集長が命乞いを始めた。決して助からないことを察したようだ。しかし、ユウは杖を下ろそうとはしない。構えたままだ。


「助けてくれ、この通りだ」


 透明化している編集長の姿は確認できない。恐らく手を合わせての懇願こんがんだろう。あるいは土下座をしているかもしれない。

 そんな言葉などに耳を貸さないユウが杖を振り上げた。そしてこの杖を降り下ろせば、上空を旋回するフレイムバードに指令が下る。


「もう、遅いですわ」


 ユウの冷たい声が響く。そして、杖が降り下ろされる。


「おい、やりすぎだ」


 ユウにショウが飛びかかった。ユウが杖を降り下ろせば、結果は目に見えてる。ゲームの中と言えども殺人だ。ショウ自身、ユウのそんな姿が見たくなかった。

 しかし、フレイムバードは降下を始めていた。主人の指令に忠実ちゅうじつしたっている。


「ダメか……」


 ショウが目を背けた。ユウを抱えながら。

 

「ショウ様……」


 ショウの後方で地面が割れんばかりのけたたましい音が発生した。フレイムバードの衝突音だ。クレータが出来上がり火の粉が飛び散った。


「きゃぁー」


 ツバサが顔面蒼白で悲鳴を上げた。クレータのすぐわきには、地に立つ右足(・・・・・・)宙に浮く左手(・・・・・・)。編集長の体のパーツが姿を現した。


「おい、ユウやりすぎだろ」

「……やり過ぎてしまいましたわ。でも、大丈夫。あれは透明風呂敷が焦げただけですから」



 ユウが冷静に答えた。フレイムバードの直撃は逃れた編集長ではあったが、火の粉を被ったことで、透明風呂敷が一部分焦げてしまったようだ。透明化出来なくなった所が露出ろしゅつしている。まるで手足バラバラのオカルト。

 地に立つ右足はひざを付き、宙に浮いていた左手は地面に手を付いた。編集長が観念かんねんしたのだろう。


「ショウ様、こんな所で……」


 ショウはユウを抱えているのをすっかり忘れていた。いつもならツバサが引き離すだろうが、オカルト絵図を見たツバサはそれどころでないようだ。


「あ、あぁ……」


 ショウはバツが悪そうな素振りを見せた。ミサキに見られていないのがせめてもの救いだ。


「で、ユウ。もう、いいよな?」

「いえ、もう少しだけ」


 ユウが地面から起き上がると魔道服の砂ぼこりを払う。純白のローブが土で汚れた。


「危険なことは無しだからな」

「えぇ、もちろんですわ」


 改めてユウが炎の杖を握りしめる。また魔法を打つようだ。


「さぁ、編集長よ。わたくしたちの力をとくと見るがいい」


 ユウがまたしても呪文を唱えた。高々と上げる炎の杖。眩いばかりに光った。


「ファイアーウォール!」


 ユウが魔法レベル9の魔法を使用した。トウカとメイド長の前方の藪を炎で包み込んだ。次第に炎が中心に集まり、中心で火柱を上げた。


 森がまたたく間に無くなった。一番驚いたのはメイド長のようだ。目の前の森が消失したのだから無理もない。目の前の出来事に目をぱちぱちさせる。編集長は透明化により表情は読み取れないがうめき声が聞こえるからに驚きのあまり声も出ないようだ。


「おい、ユウ? 満足したか?」

「えぇ、十分ですわ」

「ミサキに怒られるぞ」

「大丈夫ですわ」


 ユウが編集長の方へと目を向けた。実際は透明化が出来ていない手と足しか見えない。それだけ十分のようだ。


「先程のフレイムバード。あなたを覚えましたから。どこからでも狙えますのでご注意を」


 ユウがフレームバードをホーミングミサイルかのように伝えた。チート過ぎる。実際はそんなことはない。目に見える範囲でないとコントロールがほぼ効かないと言っていい。しかし、森を焼き尽くした張本人が言うのだ。嘘だと思うほうが無理な話だ。


 ユウは満足したかのようで、炎の杖を自分のアイテムボックスにしまった。


「ユウさん、こっそりショウ先輩の杖をしまわないでください。私、見てましたよ!」


 ツバサもいつも通りに戻っている。オカルトのネタバレが済めば大したことはないようだ。


「雑魚には幻覚が見えるのでしょうね」

「雑魚でも幻覚でもありません。もう!」


 ツバサがいつのもように牛になる。


「これで、大丈夫なんだろうか?」

「ショウ様、大丈夫ですわよ。恐怖で押さえつけましたから」


 確かに恐怖だ。魔法の威力もさることながら、ユウの表情。死を司る表情であった。今、思い出しても寒気がするほどだ。


 ユウが、メイド長のもとへと歩み寄った。


「メイド長とおっしゃいまいたわね。先程のことは内密にお願いしますわ」


 内密と言っても、内緒にできないであろう。森が消失している。


「えぇ、事情がありそうですね。わかりました。ただ、もし力を貸していただけるのであればお願いしたいのですが」

「わたくしは、あの方のためにしか戦いませんわ」


 ユウが流し目をしながらショウを見た。それを見たメイド長からは笑みが溢れる。


「若いっていいですね。懐かしい」

「メイド長も、そんな経験がお有りで?」

「えぇ、後悔しないように」


 メイド長が意味深な言葉を発した。


「ちょっと、ユウさん、何を話してるんですか?」


 ツバサがユウに詰め寄った。


「雑魚は口を挟まないでくれますか?」

「雑魚って呼ばないでください」


 ツバサがプンプンいきどおる。その表情をみたメイド長がクスクス笑う。


「メイド長、どうしたんですか?」

「いえ、楽しそうでしたので」

「全然、楽しくありません」


 ツバサが不満げに言った。


「じゃあ、撤収だ。おい、帰るぞ」


 ショウの一言で幕が下りた。

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