142話 第二章 第十一節 ユニットサーチ
トウカ、メイド長のタッグが戦う後方で、ショウは血の気が引き固まっていた。
「ショウ先輩、どうしたんですか?」
「あ、あぁ」
ツバサに心配をされるほどだ。それほどにショウの様子がおかしい。
「戦闘中ですよ。しっかりしてください」
すると、ユウが口に手を当て声を張り上げた。
「トウカよ! 雷切りは使わぬように! スキルの消費が激しい。……火に変えなさい」
ユウがスキルポイントを指摘し、雷切りの自粛を促した。
「でも」
「使わないこと」
ユウが鋭い視線をトウカに向けた。そんな表情をとるユウも珍しい。よほどのことがあるかのようだ。
「わ、分かったわ」
トウカが雷切りを使わないことを了承した。
「ショウ様、まずは編集長の場所を把握するべきですわ。ユニットサーチを」
ユウは自分で使えばいい簡素な魔法をショウに使わせようとする。
「あ、あぁ、わかった」
第三クラス探知魔法――ユニットサーチ――
ショウの手元のマップには赤い点が無数、青い点が四つ。緑の点が二つ現れた。赤い点はモンスターだ。無数の敵が湧いている事を指す。そして青い点はショウ、トウカ、ツバサ、ユウを表す。そして、緑の点、これが本命だ。ひとつはメイド長。そして、もうひとつは編集長の物なのだ。
緑の点の方向から声が聞こえた。
「バ、バカな。ユニットサーチの魔法は大賢者の数人しか使えないはずだ。確かレベル3の魔法のはずだ!」
編集長の声が裏返る。それほどの衝撃的な出来事だったのだろう。姿が見えないのは残念だ。案外、腰を抜かし倒れているかもしれない。
「ショウ様? ユニットサーチはレベル3でしたか?」
「あぁ、昔に覚えた魔法だから忘れたわ」
ショウは落ち着きを取り戻し、普通に受け答えをする。
「む、昔って、そんな若者が覚えれるはずがない!」
編集長には納得いかないことなのだろう。この世界の最高レベルは40に制限されている。ユニットサーチはレベル3。すなわち適正レベル30の上位魔法だと言うことだからだ。
「まぁ、場所は分かった。逃げるんじゃないぞ」
ショウが編集長に釘を刺した。
「ショウ様、念のため鳥を飛ばしておきますわ。杖をお借りできますか?」
ショウはうなずくと、アイテムボックスから炎の杖を取り出した。そして、杖がユウへと渡った。ユウは杖を受け取ると愛しそうに頬ずりをする。
「ユウさん! それ、私のあげた杖なんですよ。壊さないでください」
ツバサが抗議をする。戦闘の最中、いつものようにケンカが始まった。この二人のケンカはTPOを弁えない。時、場所、場合、関係ない。
「わたくし、か弱いですから。壊すなど。雑魚みたいに力ありませんわ」
雑魚とはツバサのことで間違いないだろう。ツバサは前衛職だ。ステータス上、力が強くて当然だ。一方、ユウは後衛職。力がなくてこれまた当然のことだ。
「もう、ユウさん。私を見て言わないでください」
ツバサの言うことなど無視し、ユウが魔法を唱えた。
第七クラス炎魔法――フレイムバード――
どす黒い色の炎を纏う鳥が現れた。炎の鳥は上空で旋回するとユウの持つ、炎の杖で羽を休めた。
「炎の杖との相性は抜群ですわね」
ユウが炎の鳥を見て呟いた。そして、炎の杖を振ると、宿り木を失った炎の鳥が飛び立った。
「おい、なんだ。あっち行け。なんで、ファイアーバードに位置が特定できるんだ!」
透明になっている編集長が何かを言っている。口ぶりからするにフレイムバードを追い払おうとしているのだろう。
「触ると火傷しますわよ。その鳥、ファイアーバードじゃありませんから」
「何! ファイアーバードじゃなければなんだと言うんだ!」
「先程言いましたわ。フレイムバードですわ。ファイアーバードの上位互換ですわ」
「上位も何も、ファイアーバードですらレベル3のはずだ。それより上があるなど聞いたことがない」
さすが新聞社の編集長だ。魔法レベルは一応把握はしているようだ。
「フレイムバードは魔法レベルは7ですわ。大したことはないです」
「レベル7だと!」
新聞記者は驚きの表情を浮かべていることだろう。しかし、透明でショウ達には見えない。
「おい、ユウ。レベル5までの魔法って言われてただろ? いいのか?」
「構いませんわ。ショウ様? 人を従わせる方法ってご存知ですか?」
「いきなりなんだ? 突然言われてもな」
「正解は飴か鞭ですわ」
「飴と鞭じゃないのか?」
「いいえ、飴か鞭ですわ。報酬で釣る。もしくは恐怖で支配する。そのどちらかですのよ」
「今の状況とどう関係があるんだ?」
「そこの編集長に分からせようと思いまして」
ユウが炎の杖の先を、編集長がいるであろう方向へと伸ばした。
「お、脅しには屈しない。俺は部数のために筆を取るんだ!」
「正義のために筆を取るのではなくて? 根本的に間違ってますわ」
ユウの指摘は鋭かった。新聞記者としては部数がすべてなのかもしれないが、不正に手を出すのはいかがなものか。
「シロウトにあれこれ言われる筋合いはない。俺はプロだ。だから部数も稼げるんだ!」
「でしたら、わたくしが部数に協力して差し上げますわ。有名な新聞記者が命をかけてスクープしたと」
「何を言ってるんだ、貴様は」
「部数を稼ぎたいのですよね? さぁ、死になさい」
ユウの目が座っている。背筋が凍りつくかのような冷たい目をしていた。