139話 第二章 第八節 呼び出し
ショウ達一行が町を抜け、森を進み、ダンジョンへと足を進める。その時だ。ショウのフレンドリーコールが鳴った。
『ショウ君、大変よ』
「なんだ、ミサキか?」
『なんだ、じゃないわよ。例の新聞記事、訂正なんて出てないないよ。それどころか城に圧力を掛けられた、言論弾圧だって記事に書いてるのよ。何しに行ってきたのよ!?』
「マジか?」
『マジも何も、大マジよ。今、新聞社来たけど担当の記者……編集長だったわね。編集長が不在なの。取材中らしくて、そこのダンジョンの近くの森みたいよ』
「抗議しに行った方がいいってことか?」
『さっき行って、失敗したでしょ?』
ミサキに痛いところを突かれるショウはぐうの音もでない。
「ショウ様? なにを話されてますの?」
ユウが不思議そうに尋ねた。ユウにはショウのフレンドリーコールは聞こえないので無理もない。
「あぁ、トウカが新聞で悪者扱いされてるんだが、抗議したら、悪化したってことだ」
「そうですの? わたくしが話しましょうか?」
『ユウちゃんなら上手く行きそうね』
ショウの耳にミサキのフレンドリーコールの音声が入る。聞こえるはずのないユウの声がミサキには聞こえてるようだ。
「おい、ミサキ? ユウの声が聞こえるのか?」
『ええ、聞こえるよ。なんたって私、神なんだから』
ミサキは神だと言った。しかし、ショウは神のいる天国ではなく閻魔様のいる地獄を思い浮かべる。ミサキが地獄耳だからだ。
「で、その編集長の居場所はどこなんだよ?」
『そこから、もう少し北に向かったところ。一本松って言えば分かる?』
「あぁ、分かるが。そこへいけばいいんだな」
『ええ、ユウちゃん、頼んだわよ』
「オレじゃないのか?」
『ショウ君が一度失敗してるからこんなことになってるんでしょ?』
「あぁ、わかった。ユウに伝えておく」
『じゃぁねー』
ミサキからのフレンドリーコールが切断された。
「ミサキが、よろしくってさ」
ショウはユウに向き直し、ミサキの言葉を伝えたのだ。
「ショウ先輩! 何で、私はのけ者なんですか!」
憤るのはツバサだ。この場にいたことすら忘れられていた。
「雑魚は、黙ってなさい。わたくしへのお言葉ですのよ」
ツバサとユウがにらみ会う、この二人と行動をすると、いつもこんなことばかりだ。
「とりあえず、北の一本松に行くぞ。そこに偽記事を書いた編集長がいるらしいからな」
「ショウ様? それは編集長なのですの?」
ユウがショウに疑問をぶつけた。
「あぁ、間違いない。新聞社に行った時に書いたって確かに言ってたからな」
「それ、罠だと思いませんか?」
ユウが妙なことを言い出した。罠だと。
「どうしてそう言い切れるんだ? ミサキが言うには取材らしいぞ。新聞社が取材するくらい普通のことだろ?」
「編集長、自ら取材に行くなどおかしくありません? 普通は下の者が行くはずですわ。それに、一本松のエリアはモンスターが湧くので有名ですから。そんな危険なところに……」
ユウが首を傾げ考える。仕草が愛らしい。
「ショウ先輩。早く行きましょうよ」
構ってもらえないツバサはショウの腕をグイグイ引っ張る。
「おい、ツバサ。ちょっと待てよ」
そういうと、ショウがツバサの腕を振りほどく。振りほどかれたツバサは不満げに頬を膨らます。
「わたくしが罠だと指摘してるのに、雑魚には脳みそがないのですの?」
「モンスターがたくさん出るなら、私が倒すので問題ありません」
ツバサは自信満々に無い胸を叩く。任せてくださいと言わんばかりだ。
「そういうことですわね」
「ユウ? どうしたんだ?」
「MPKの類いを行うのかもしれませんわ」
「MPKって。モンスター押し付けるやつか」
――MPK――ゲーム内で使うの用語のひとつ。モンスターを利用しプレイヤーを殺すこと。手段、または方法を示すワード。――参考文献『初めてのファイアーウォール中辞典』より――
どうやらそのことにユウが気づいたようだ。
「そうだと思いますわ。方法は分かりませんが。大方待ち伏せで間違いありませんわ」
「じゃあ、どうするんだ? 行かない訳にもいかないだろ?」
「ええ、行きますわ。その編集長というお方、わたくしたちのレベルを存じてないのでしょうから」
「どういうことだ?」
「この世界は今、レベル40に制限されてますわ。レベル40ならMPKが可能かも知れませんが、わたくしたちを陥れるなど不可能ですわ。レベルが違いすぎますから。そこの雑魚ですらレベル81」
ユウがツバサを指差した。相変わらずツバサは雑魚呼ばわりだ。
「もう、雑魚って呼ばないでください!」
ツバサが憤りユウに向かって文句を言う。いつもの光景にショウがため息をつく。
「で、行くってことでいいよな」
ショウの言葉に、ツバサとユウが頷いた。出陣の合図だ。