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13話 第三章 第三節 酒場

ショウとトウカは無言で町までの路地を歩く。先を歩くショウ、後ろには俯きながら歩くトウカ。路地を抜け人通りの多い大通りに出ると、トウカがやっと口を開いた。

「あのー、あ、ありがとうございました」

 笑顔が溢こぼれるトウカはツインテールをフワフワさせながら頭を下げた。

「いや、いいんだ。それより少し話しが聞きたいんだがいいか?」

「な、何んなの?」

 トウカの顔が険しくなる。

「さっき、町で光ってた時のことだ」

「さっきの人たちと同じなの? あれは魔法じゃないわっ!」

 助けてもらったのだが結局同じことを聞かれてることに気が付きトウカはショウのことを裏切り者のような目で見た。

「いや、魔法じゃないのは分かってる。ログアウト出来ないんだろう? 事情とかを聞かせてほしいんだ」

 ショウがそう答えると、少しばかりトウカの緊張が解れたように見える。

「そうなの……。ログアウト出来ないの。何でか分かるの?」

 トウカは、ログアウト出来ないことを思い出したのか、不安そうな顔となった。そんなトウカをショウが不憫ふびんに思う。ここで話しをするのどうかと思いショウが店へと誘う。

「じゃあ、お茶でも飲みながら、少し話そうか?」

「分かったわ」

 トウカが頷いた。ショウは近くの店に入ることにした。ショウが選んだのは酒場だ。店の中からは楽しそうな会話が聞こえてくる陽気な酒場。入り口のウエスタンドアを開け、トウカをエスコートする。

「あたし、未成年よっ!」

 トウカは酒場に入ったことがないようだ。未成年だから当然かもしれない。未成年はバーチャルの世界でも飲酒は禁止。ショウも承知の上だ。しかし、近くに喫茶店などないから仕方がない。

「あぁ、分かってるよ。普通の飲み物もあるから問題ないさ」

「あっ、そう。いやらしいことしないでよっ!」

 トウカは渋々ではあるが店の中に入り席を選ぶ。二人は木製の椅子に向かい合う形で腰掛けた。

 店内はカウンター席とテーブル席がありカウンターの奥には多くの酒のボトルが並べられていた。カウンターの中ではバーテンダーと見られる髭を生やした男性がシェイカーを大道芸のように空中でクルクル回している。

 店員が注文に着たので、ショウはメニューを指差した。

「コーヒー1つ」

「あたしも」

 二人は注文を店員に告げた。

「そういえば、まだ自己紹介をしてなかったな。ショウだ。よろしくな」

「あたしはトウカ。助けてくれてありがと」

 トウカはお礼を言うのが苦手のようだ。顔を横に向けぶっきら棒にお礼を言った。

「じゃあ、トウカって呼べばいいか?」

「何よ、いきなり」

「気に入らなかったのか? トウカちゃんのほうがいいか?」

 トウカが顔を赤らめる。

「じゃあ、トウカでいいわっ!」

 半分怒り気味のトウカはそう言い放った。

「じゃあ、あたしは何て呼べばいいの?」

「まぁ、好きに呼んでくれ」

「ふーん」

 トウカは腕を前で組み考えた。名前で呼ぶほど親しくもない相手だ。しかも異性相手である。名前で呼ぶのがトウカは恥ずかしかったようだ。

「じゃあ、あんたは、あんたね」

「いやぁ、何でもいいとは言ったが、いきなりあんた呼ばわりかよ」

「いいでしょっ!」

 何でも良いと言われたのに、駄目出しされたトウカは不機嫌そうな顔をする。

「名前で呼ぶなど恥ずかしいし……」

 トウカは呟いていた。

「何か言ったか?」

「……何でもないわ」

 ショウには良く聞こえなかったようだ。

「ところで、何でこの世界に残ってるんだ?」

 ショウが本題に入る。ちょうど良いタイミングで注文してあった二杯のコーヒーも運ばれてきた。机に置かれると皿に乗ったコーヒーカップがカタッと音を立てた。

「飲みながらで良いから、聞かせてもらえるかな?」

 ショウはトウカに質問した。

「あたし、初心者でログアウトが重要だって知らなかったのっ! ゲームの回線が止まれば自動的に戻れるものだと思ってたのっ! このままじゃあ、宿題も出来ないし、明日学校で怒られちゃう……」

 泣きそうな目で、トウカは訴えてきた。

「友達とか、取り残されてる人はいるのか?」

「それは大丈夫だと思うわ。だってフレンドリストがみんな灰色文字だもん!」

「えっ!?」

 ショウは目を丸くして驚いた。トウカのフレンドリストは生きているようだ。ショウのフレンドリストは、全て消えているのにも関わらず。

「どうしたのよっ!」

 ショウの驚きに、トウカもビックリしてしいた。

「ちょっと待て、オレのフレンドリストの名前はすべて消えてしまったんだ」

 トウカは首を傾げ、ポンっと手を打った。

「そういえば、フレンドリストの人数が減ってるわ」

「どんなやつが減ったのか、分かるか?」

 ショウは何かそこにヒントがあるのではないかと考えた。

「えーと、消えてるから、誰が何人、いなくなったのかは、分からないわよ」

「構わないさ、覚えてる人だけでも頼むよ」

「わかったわ。じゃあ、一人目は以前モンスター退治に行った時なんだけど、死にそうになった時に助けてくれた強い人だった。二人目は商人の人だわ。あたし、レベルが低いでしょ? だからこの人にレベルが足りなくて行けないエリアのアイテムを買って来てもらってたの」

 ショウはトウカに強い人と抽象的に言われたので、正確なレベルが知りたく質問をした。

「レベルはどれくらいの人か分かるか?」

「えーと、商人の人は、たぶんレベル70くらいだと思う。装備がそれくらいのレベルからのだったから。助けてくれた女の子は、強いけどレベルが全然分からなかったわ」

 ショウは不思議に思った、装備を見ればおおよそのレベルが把握できるのがこの世界だ。なのに装備を見ても不明なのは不思議なことだ。

「装備を見れば、大体のレベルが分かるだろう?」

「それがね、レベル1の服を着てたのよ」

「じゃあ、武器で判断できないか?」

「装備は無かったのよ。敵を素手で殴り倒してたわ。なのに物凄く強いの」

「なんだそれ? 格闘系の職業ってことだな」

 ショウは弱い服を常に着る格闘を得意とする上級職の修道士、いわゆるモンクに覚えがあった。モリゾー所属の修道士のことだ。残念ながらフレンドリストにも入っていないので消息不明だ。

「じゃあ、二人ともレベルが高かったってことだな?」

「まぁ、そうなるわね」

「他に消えた人のことは分からないか?」

「うーん、記憶にあるのは、この二人だけだわ」

 トウカは首を傾げたり、腕を組んだりしてみたが、これ以上思い出せないようだ。

「逆に、フレンドリストに残ってる人はどんな人なんだ?」

「そうね。あたしと同じくらいのレベルの人で、よく一緒に狩りに行く友達が多いかな?」

 ショウもまた腕を前で組み考える。トウカのフレンドリストの高レベルプレイヤーの名前がなくなっていた事について。ショウも同様だった。ショウのフレンドリストが消えたのは、高レベルプレイヤーしかいないかったのが原因なのかもしれない。

「ちなみにトウカのレベルはいくつなんだ?」

「ん? あたし? あたしはレベル33よ」

「ということは、レベル33ならフレンドリストに表示されるってことか?」

「うーん、分からない。どうなんだろう?」

「じゃあ、オレとフレンド登録するか」

「えっ! なんであんたなんかと……」

 急なフレンドリストの提案にトウカは驚き、恥ずかしそうに顔を横に向けた。トウカの顔は赤らめる。

「なんだよ、オレじゃあダメか?」

「ま、まぁ。実験でのフレンド登録でしょ? 実験での……」

 やけに実験のところを強調しながら答えるトウカにショウは首を傾げた。

「じゃあ、オレが申請するから、許可頼むな」

「分かったわよ。実験なんだからね」

 ショウは目の前にメニュー欄フレンドリストの画面を開いた。そしてトウカにフレンドの申請をする。

「わっ、来たわよっ!」

 トウカがオドオドする。

「そりゃあ、行くだろう。申請したんだから」

「そ、そうよね……」

 トウカが許可をしてフレンド登録は無事に完了した。

「おい、トウカ? フレンドリスト見てみたか?」

「えっ、何?」

 トウカはフレンドリストのショウの文字をまじまじと見つめている。

「いや、フレンドリストだよ。オレの文字は白文字か?」

「えぇ、そうよ。確かに白文字になってるわ」

「じゃあ、ログインしてるプレイヤーについては白文字で、以前の仕様と変わってないってことだな」

 ショウのフレンドリストの『トウカ』という名前も白色で表示されている。

「そうみたいね」

 ショウはまたもや考え始める。ショウ自身、フレンドリストに載っているならレベルの違いで消える訳ではないのかもしれない。では、リストから消えてしまったツバサやユウはどうなったのか。謎が謎を呼ぶ状況にショウは頭を抱えていた。考えれば考えるほど、状況が飲み込めない。

 そんなショウにトウカが話しかけた。

「あたし、さっきの盗賊の件でイライラしてるのっ! モンスター狩りに付き合ってよっ!」

 いきなりの提案に思考が追いつかないショウがいた。しかし、頭使ってるだけでは仕方がないと思い、ショウは狩りに行く提案を呑むことにする。答えが出ないことを悩むよりも良いと判断した。

「分かった。付き合う」

「で、あんた? 強いんでしょうね?」

「まぁ、そこそこ強いんじゃないか? 盗賊くらい追い払えたからな」

 ショウは剣士ではない。ステータスの上では強くても実際の戦闘力など不明だ。判断しかねての回答だった。

「何よ、その曖昧な答え方は、レベルいくつなのよっ!」

「まぁ、剣士としたらレベル60くらいかな」

 ステータス的に言えばそれくらいだろう。所詮本業ではない。力だって劣る。

「レベル60ね。まぁまぁ強いみたいね」

「レベル33のお前より強いぞ」

「そこまで言うなら、ダンジョンの奥のほうまで行くからねっ!」

 トウカは、残りのコーヒーを一気に飲みほし、出かける準備を始める。

「あんたも、早く飲みなさいよ。行くわよっ!」

「分かった。分かった」

 返事をしていると、既にトウカは立ち上がり店の外に向かっていた。

「勘定はオレ払いか?」

 ショウが告げるが、既にトウカの姿はそこにはなかった。ショウが渋々財布を出して会計をする。そして、トウカの後を追った。


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