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138話 第二章 第七節 赤色のマント

「おい、戻ったぞ」 


 ショウが宿屋の部屋に戻る。部屋の椅子にはミサキが一人椅子に腰掛けていた。


「あら、お帰り。トウカちゃんの件は解決したの?」

「まぁな、メイド長が上手く話を付けてくれた。記者も訂正記事を書いてくれるそうだ」

「そう、良かったね」

「まぁ、そうだな。ところでミサキ一人なのか?」

「何? 私と二人きりになりたかったの?」


 ニヤ付くミサキが答えた。


「そんなんじゃねーよ。いつもならツバサが来てるだろ?」

「ツバサちゃんはさっき来たよ。ユウちゃんも来たよ」

「ユウがこの時間来るなんて珍しいな。いつも部活がどうのって言ってるからな」

「ユウちゃんって何の部活をしてるか知ってる?」

「そういえば、知らないな。何だろうな」

「何だろう、じゃないでしょ。もうちょっとユウちゃんに興味を持ちなさいよ」

「まぁ、戻ってきた時にでも聞いてみるさ。で、あいつらはどうしたんだ?」

「あの二人なら、ウイルス討伐に行ってもらってるよ」

「そうか。まぁ、あの二人なら戦力的には(・・・・・)問題は無いんだけどな……」

「どうしたの? 心配なの?」

「まぁな。今頃、ツバサがユウの魔法で吹き飛ばされているんじゃないかと思ってな」


 ショウの脳裏にはツバサが吹き飛ばされてる姿が浮かんでいた。想像すると溜息が出る。


「何だかんだ言って、ユウちゃんはツバサちゃんのことをよく見てるから、大丈夫じゃないかな?」

「そうだといいんだけどな」


 すると、部屋のドアが開いた。そこには髪はグシャグシャで頬を汚すツバサの姿があった。


「お、おう……。お帰り」

「お帰り、じゃないですっ! 私、またユウさんに魔法で吹き飛ばされたんです」


 ツバサは頬を膨らませて、ショウに抗議をする。ショウ自身、オレに言われてもなぁ、と思うしかない。


「そなたが周りを見ないからいけないのだ」


 ツバサの後ろからユウが言葉を発した。


「もうっ! ユウさんこそ、周りをよく見てくださいっ!」


 ツバサとユウが火花を散らしてにらみ会う。こんなところでケンカを始められてはたまったものではない。宿屋が吹き飛ぶ。


「二人とも、もうおしまいよ」


 いつものようにミサキが二人の間を手を叩き割り込んだ。


「で、ウイルス討伐は出来たの?」


 ミサキが二人に訪ねる。ツバサとユウが同時に答えた。


「私、一人で十分でした!」

「わたくし一人で十分でしたわ!」


 ツバサとユウが互いの言葉を聞くとまたしてもにらみ合う。視線の先に火花を散らす。


「ツバサもユウもこれくらいにしておけよ」


 ショウが制止をうながした。


「それにしても、その頭酷いな」


 ショウがツバサを見て言った。ツバサの髪はグチャグチャだ。青髪のトレードマークのポニーテールが今は見る影もない。


「ショウ先輩も、おかしいです。お揃いです」


 急に、にこやかになるツバサ。ショウの頭は寝癖が付いたままだった。


「しょうがないので、そなたの髪を結って差し上げますわ」

「結構です! ショウ先輩とお揃いのままでいいです!」

「では、ショウ様。わたくしが髪を解きますわ」


 ユウがアイテムボックスかたくしを取り出した。


「ユウさん、私の髪を直してください。ショウ先輩のは私がやりますから」

「そなたは先程、必要ないと言ったばかりでありませんか? なのでこれはショウ様だけ(・・)に」


 確かに、ツバサは断った。しかし、ツバサの気が変わったのかユウの持つ櫛を取り上げるという荒業あらわざに出た。ツバサは櫛を手にすると髪をき始めた。


「せっかく用意しましたのに、失礼しちゃいますわ」


 ユウは微おこだ。そんな時だ。ユウがショウの姿を見て指摘した。


「ショウ様、マントの色が赤色ですわ」


 ショウは指摘され、自分のマントのすそ手繰たぐり寄せた。


「ホントだな。そういうユウ、お前のマントも赤くなってるぞ」

「ホントですわね」


 マントの色が変わるのはリミットを知らせる合図だ。一週間で消えるマント。四日目に赤となり警告の色を発する、いわゆるウォーニングランプの様な物になっている。そして一週間以内に黒の染色液を使用しなければマントは消えてしまう。


「ミサキ? これが例のマントの消える合図のことだな」

「ええ、そうよ」

「これって、黒の染色液で元に戻るんだったな」

「そうだよ」


 ショウが椅子から立ち上がると、クローゼットまで移動した。下の引き出しから黒の染色液を取り出した。


「これを使うんだよな」


 ショウは黒の染色液のボトルを印籠いんろうのようにかざした。


「そうそう、それをかけるだけだよ」


 ショウは黒の染色液のボトルのふたを開けるとマントに振りかけた。すると黒い色が波紋はもんのように広がり黒色に戻った。


「これでいいのか?」

「ええ、そうよ」


 マントは黒く戻り、ショウの引きこもり生活は回避された。マントが消えたら、部屋から一歩も出られなくなる。


「全部でマントは13枚だったよな」

「そうだね」

「全部、染色そめ直した方がいいか?」

「使っておいてもいいかもね」

「それ! 私が集めて来たんですよ。私ですよ!」


 ツバサが自分の活躍をアピールするかの様に言う。


「ショウ様、先に次回の分の黒の染色液を用意した方がいいかと思いますわ。すぐに手に入らないようでしたら少しでも使用のタイミングを送らせるのに限りますから」

「何でですか、私が集めて来たんですよ! すぐ使ってください!」


 ツバサとユウがにらみ会う。いつもの光景だ。


「ミサキ、どうしたらいいと思うか?」

「ショウ君、自分で決めなさい。私、悪者わるものになりたくないから」


 どちらかの意見を立てれば、片方がおろそかになる。選択と言うことはそういうものだ。


「ショウ先輩! どうするんですか!」

「ショウ様? どうされますの?」


 ショウはツバサとユウにつめめ寄られる。たかがアイテムの使用でここまでこじれるとは思わなかった。たかがアイテム、されどアイテム。そして、ショウが悩みの末、たどり着いた答えが。


「じゃあ、ここは、じゃんけん(・・・・・)でだな」


 じゃんけんと聞いた途端、ミサキがため息を付いた。のち結末けつまつを予想しているかのようだ。


「ショウ先輩は、じゃんけんで彼女を決めるんですか?」

「ショウ様は、じゃんけんで婚約者を決めるんですの?」


 アイテムの使用の話が、いつの間にか彼女だか、婚約者だか、意味の分からない方向へと歩きだす。


「ショウ君? 安易あんいすぎるでしょ?」


 ミサキにも突っ込まれる始末だ。そこで、ショウは次なる方法へと出た。


「なら、多数決でどうだ」


 民主主義の大正義、多数決だとショウが言う。


「それなら、私は司会をさせてもらおうかしら」


 ミサキが司会を買って出た。普段、仕事をしないミサキが率先そっせんして言う。悪いこと考えているに違いない。


「じゃあ、すぐに染色液を使った方がいいと思う人!」

「はい、はーい!」


 ツバサがピョンピョン跳ねながら手を上げた。一票。


「すぐに使う方が一票と、じゃあ、あとから使った方がいいと思う人」


 ミサキがそう言うと、ユウが手をちょこんと上げた。一票。


「えーと、すぐ使う方がいいのが一票と後から使う方がいいのが一票と。同点ね。ショウ君はどっちにするのよ?」

「そういう、ミサキも手を上げてないだろう?」


 ショウがオウム返しで聞き直す。このままではすべての責任をショウに押し付けられる。それだけは回避したいとミサキにたずねたのだ。


「え? 私? 司会者だから中立よ。どちらか決めるのはショウ君だよ」


 ミサキは逃げた。上手いこと逃げた。わざわざ司会をやると言い出したミサキの魂胆こんたんが今になってようやく分かった。なかなかするどい。


「で、オレが決めないといけないのか?」

「ええ、そうよ。私、投票権無いから、ショウ君の一票で決まるのよ」


 ショウは追い詰められた。ツバサとユウに見つめられどちらがいいなど言えない。


「ショウ先輩どっちにするんですか?」

「ショウ様、どちらになさいますか?」


 ツバサとユウがショウに迫る。どうしようもない。


「ミ、ミサキ、どうしような?」

「どうしようじゃないでしょ? そういうところがダメなんと思うけど」


 ミサキがため息混じりに言う。


「すぐに決めろと言われてもな。そうだ、プルトーマイン(・・・・・・・)で戦いながら決めよう。身体を動かした方がいいな」


 ショウがひらめいた。プルトーマインで黒の染色液をドロップして誤魔化してしまえと考え着いた。


「そこ、黒の染色液が出ますよ! 私、そこで取って来たんですから!」


 ツバサにすぐに突っ込まれた。ショウの作戦はいきなり頓挫とんざした。


「ショウ君? またはぐらかそうとしたでしょ?」


 ミサキにもバレる始末だ。


「まぁ、たまたま出たら出たで、よしとしよう。おい、行くのか行かないのか?」

「行きますわ。雑魚は置いて、二人きりで行きましょ」


 ユウがツバサに目を流す。


「私も、行きます!」


 ツバサがユウに乗せられ行くと言い出した。


「じゃあ、決まりだな。ミサキはどうする?」

「私はいかないよ。ここで待ってるから」


 ミサキにやる気(・・・)という言葉など存在しない。先程さきほど、司会を買って出たのが嘘かのようだ。


「よし、行くぞ」


 ショウは部屋を後にしようと歩きだした。本題の、黒の染色液を今使うか、それともあとで使うかをはぐらかすことに成功した。

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