134話 第二章 第三節 薔薇百合
ショウはロッカールームからトウカが出てくるのを待った。たかがアイテムボックス一つ置くだけのこと、それほどの時間を要すること無くトウカが出てきた。
「案内頼むな」
ショウが言うとトウカが頷く。城の中は未開放エリアであった。ショウはこのゲームをやり尽くしてはいたものの城に足を踏み入れるのは始めての事だ。ここはトウカに頼るしかない。
トウカの後ろを追うショウは、周りをキョロキョロと見渡す。初めて入った城に興味が湧いてのことだ。特に気になるのは壁に掛けられている装備品の数々。剣、槍、矛、杖。全てがレベル40から装備できる物だ。ショウのレベルからしてみれば、レベル40からの装備など、初心者レベルと言っても過言ではない。そんな装備が大事そうに飾られている。それもそのはず、現在この世界での最強レベルで所持できる、最強の装備の数々なのだから。
そうこうしていると、トウカが扉の前で歩みを止めた。そして、トウカが扉を開く。
そこはメイド控え室。数名のメイドが椅子に腰掛けている。まだ、食事の支度の時間では無いメイド達は雑談に耽ていた。
「あら、トウカさん。こんにちは。今日もお手伝いしてくれるの?」
メイドの一人がトウカに声を掛けた。
「ちょっと、メイド長に相談したいことがあるのよ」
「そうなの? メイド長は忙しそうにしているよ。昨日の城襲撃の件で、後片付けが大変みたい」
「そうね。昨日は大変だったわね」
昨晩の戦闘で前線で戦ったトウカにしてみれば、大変などの言葉では収まりきらないであろう。火の粉が降りしきる戦場で剣を振るっていたのだから。
「それにしても、トウカさんは大活躍みたいね。剣を振ってたって」
「そ、そう? まぁ、あれくらい当然よ」
トウカは顔が綻び、自慢げに言う。
「メイド長もなかなか強いみたいよ。何でも兵士上がりなんですって」
「そうなの? あたしには包丁を握り締めるメイド長しか想像できないわ」
メイド長の前職が兵士などと知らないトウカは、剣を持つメイド長の姿を想像したようだ。しかし、言葉から察するにトウカが出した結論は包丁を握り締めるメイド長の姿。有る意味ホラー映画の域だ。
「ところで後ろの男の子は誰? 彼氏?」
メイドの一人がトウカに尋ねたのだ。
「ち、違うわよ。ただの知り合いだわっ!」
ムキになるトウカを見ると、メイドが口角を上げた。まるでミサキ二号と呼んでもおかしくない表情をする。
「じゃあ、私が貰っちゃおうかしら?」
「ダ、ダメよっ!」
メイドが何かを悟ったような顔をするのだ。後ろで見ているショウは、不思議そうな顔をしているだけだ。
「どうして? だって、トウカさんの彼でも何でもないんでしょ?」
「そ、それは……」
「じゃあ、いいじゃない」
「だって……。えっと、そうそう、あいつには……」
トウカが後ろにいるショウをチラ見し、メイドの耳元で小声で呟いた。
「ツバサさんもいるんだから」
自分の名前を挙げないところが小聡明い。これ以上恋敵を増やすわけにはいかないと思ったトウカの判断のようだ。
「ツバサって子、新人の執事の男の子のことでしょ? そこの子って、そっち系?」
メイドがショウに目線を移しニヤ付く。そして、大好物でも発見してかのように涎をじゅるりと飲み込んだ。このメイドは薔薇物が好きのようだ。いわゆるBLというやつだ。
「えっと、実はツバサさんは女の子なの」
「あれ? 執事してるから男の子だと思ってたよ。あら、残念。女の子なのかぁ」
メイドが肩を落とす。相当残念だったようだ。
「ちょっと待って、その子、お嬢様のとこ行ってるのよね?」
「えぇ、行ってるわ。それがどうしたの?」
「女の子ってバレたりしたら大変よ!」
「どういうことなの?」
「お嬢様は、そっち系なの……。でも、内緒よ。もうこの話は終わり」
これ以上の掘り下げを打ち切るかのようにメイドが終わりを告げた。