133話 第二章 第二節 記帳
ショウとトウカは無事に入城を果たした。トウカの嫌疑を晴らすための第一歩が築かれた。2人の後方では城の堅牢な扉が閉まる。光の減った城内でショウが眉をひそめた。
「すみません、記帳をお願いします」
男の声がする方にショウが顔を向けた。暗さは次第に慣れ、ショウの目には警備室の窓が映った。城の入り口の警備室。記帳をして入るのが通例のようだ。
「あっ、あぁ」
ショウは困った表情を浮かべながら返事をした。さて、ここはショウと名乗るべきか、それともワトソンにするべきか。不審に思われるのもいけないと思い、ショウがペンを取った。
「どうされました?」
ペンを動かさないショウを不審に思ったのか、警備兵が声を掛けた。
「オレのこと知ってるか?」
「えーと、誠に申し訳ありませんが存じておりません」
「そ、そうか」
ショウは名前が把握されているのかを確認した。これならと思い、『ショウ』の文字を記帳した。
「警備ご苦労様」
そうショウが伝え、城の奥へと進もうとした時だった。
「ちょっとお待ちください!」
突然、警備兵に呼び止められたのだ。その声にショウがピクリと反応する。そして、恐る恐るショウが後ろを振り返った。
「武器とアイテムボックスをお預けください」
ショウが指摘されたのは、城内に持ち込むことの出来ない武器とアイテムボックスだった。
「預けないと駄目か?」
「一応、規律ですので、武器とアイテムボックスはこちらでお預かりします」
「城の中には、武器は持ち込めないのか?」
「えぇ、防犯上の理由でして」
「あぁ、分かった」
ショウが背中の大剣と腰のアイテムボックスを警備兵に手渡した。
「トウカも早くしろよ」
アイテムボックスを出そうとしないトウカにショウが催促をした。
「あたしは、ここじゃないわ」
「彼女は、メイドですので更衣室までは持ち込みが可能なのです。当然、そちらに預けることになってますよ」
「そうなのか」
「帰りに、お声掛けください。お返しいたしますので」
そういうと警備兵が大剣とアイテムボックスを奥へと運んで行く。まるでホテルのクロークだ。
「あんた、更衣室へまず寄るわよ。覗かないでよ」
「あぁ、分かってるよ」
ショウが素っ気ない返事をすると、トウカが更衣室へとスタスタと歩き始めた。
「トウカ? もし敵に会ってときはどうするんだ? 武器がないと困るだろ?」
先を歩くトウカにショウは声を掛けた。城の中を始めて歩くショウには分からないことだらけなのだ。
「武器? 壁に飾ってあるでしょ? 好きなの取って使って良いみたいだわ」
トウカが指差す先には、装飾の施されたいくつもの武器が壁に飾られているのだ。武器と言うよりインテリアに近いものだ。剣、槍、杖なんでも揃っているといっても過言ではない。いざと言う時はこの飾られている武器を使い戦うようだ。
「でも、こんなところに武器なんて置かれてたら不味いだろ? 敵が武器を取る可能性もあるしな」
ショウが見た武器類は、特に鍵が掛かっているわけでもなく、単純に壁に掛けられているものなのだ。誰でも手に取れるとショウは思った。
「その武器は、全部レベル40からの装備品みたいだわ。並のレベルの敵が侵入したところで使えないのよ」
「そういうことか、意外と考えられているんだな」
「まぁ、そうね」
トウカは自分が考え付いたかのように相槌を打つと、更衣室の中へと消えた。