132話 第二章 第一節 入城
報道陣を巻いたショウとトウカは城が見えるところまでやってきた。そんな二人の姿は奇妙なものだ
。トウカがショウのマントの中に姿を隠し、しがみついているのだ。ショウは、マントを捲りトウカに声を掛けた。
「おい、もうすぐ城だぞ。てか、顔が赤いがのぼせてるのか?」
「そ、そんなことないわ」
トウカは反論すると下を向き、腕に力を入れ、グッとショウの腰を締め上げた。
城へ行く道中にトウカは町の人から常に後ろ指を刺されていた。新聞の影響だろう。そんなトウカを不憫に思い、ショウがマントで匿ったところから今に至る。城までの道中、ショウのマントの中でモゾモゾするトウカは、周囲から見れば、超が付くほどのバカップルに見えただろう。別の意味での後ろ指を刺されていたのだ。
「おい、もう大丈夫だろ? 早く離せよ」
ショウが腰にしがみつくトウカの手をほどく。
「何よ、もう」
「何よ、じゃないだろ? 城に着いたぞ」
「分かったわよ」
トウカが名残惜しそうに手を離した。
ショウとトウカは城門に着いていた。城の中の一部は昼間であれば普通に出入り出来る。今回は、城の中まで行かなければならない。そこから先は、メイド登録しているトウカのように許可された者しか入れない。
城門を潜り、石畳をまっすぐ進む。すると、城の入り口が見えた。
「あんた、ちょっと待ってなさいよ。メイド長と話ししてみるから」
トウカが、ショウに待つように促した。今回の目的はデマ記事を書いた新聞社への抗議だ。そのためにメイド長に力を借りると言う算段だ。そして、トウカは城の入り口の兵と話しをはじめた。
しばらくするとトウカが戻ってきたのだ。
「メイド長は今、仕事中みたいだわ。手が空いたら着てくれるって」
「じゃあ、ここで待てばいいのか?」
ここで待つと言っても、城の入り口前だ。待ち合わせには不向きであろう。
「違うわ。メイドの控え室に来てもらうことになったから、中に行くわ」
「俺、入れないだろ?」
「と、友達を連れて行くって言ったら許可が出たわ」
友達であれば許可される。ショウは城の警備の甘さに驚くのだ。だがしかし、ショウにとっては好都合だ。簡単に城に入れることに安堵した。そんなショウはトウカの後ろを付いて城の入り口に近づく。
「あれ? ワトソンさんじゃないですか? また取調べを?」
門兵の第一声が。ワトソンなのだ。そういえば、先程まで取調室に行っていたのを思い出した。
「まぁ、そんなところだな」
「でしたら、|そう言っていただければ《・・・・・・・・・・・》簡単に入城を許可したのに」
門兵は、入城許可を簡単に出していなかった口ぶりをした。そりゃそうだ。そう易々《やすやす》と城に入られては警備も何もない。トウカはどうやって許可を取ったのか。
「でも、トウカは友達だから、許可したって言ってたぞ」
「さすがに、友達やお知り合いぐらいでは許可できませんが。トウカお嬢さんの許嫁ならってことで身元がはっきりしてるので。トウカお嬢さんは今や、城を守った英雄なんですよ。多少の無理は効きますので」
「ちょ、ちょっと。言わないでよ!」
トウカが顔を赤らめ、頭から湯気を出しながら抗議している。
「あんた、許可もらうための口述だったのよ。口述よ。口述!」
「あぁ、わかってる。方便なんだろ?」
「そ、そうよ。それにしても、あんた普通に城に入れるなら言いなさいよね!」
トウカが八つ当たりを始める次第だ。
「ミサキがな、ホームズごっこをしてたのを忘れてたんだ」
「何よ、それ?」
「城の取り調べに行く時の名前だったな。城の中ではワトソンって言わないと怪しまれるかもしてないな」
「別にあんたの名前は、あんたよ!」
トウカが普段あんたと呼ぶのが功を奏したようだ。名前で呼ばれていたら偽名であることがばれ、怪しまれるところだったのだ。
「では、入城の許可も出ておりますので、どうぞ」
そう言うと門兵が扉を開いた。ショウとトウカは無事に入城を果たしたのだ。