130話 第一章 第九節 メイド服
「あれ? お帰り。早かったね」
声を発したのはミサキだ。ミサキはロッキングチェアに腰掛け読書をしている。仕事をしている様子はない。
「あぁ、戻ったぞ。てか、また問題が発生した」
「何? 女の子がらみ?」
ミサキは本を閉じた。本よりも面白い物を発見したかのように不敵な笑みを零した。
「違げーよ。トウカがな、新聞記事に載ってたんだ。悪いように書かれてた」
「ふーん、何て書いてあったの?」
ショウは手にしている新聞をミサキに手渡した。ミサキは新聞を受け取ると記事を確認し始める。
「昨日の、城の襲撃犯がトウカちゃんになってるのね」
ミサキは、お目当ての記事をすぐに見つけた。それほどまでに大きく書かれていた。
「あたし、何も悪いことしてないわっ!」
トウカは懸命に訴えるが、訴える相手を間違えている。訴えなければならないのはこの記事を書いた記者であろう。ミサキには、この記事が間違っている事くらい、すぐに分かるはずだ。
「えぇ、分かってるよ。トウカちゃんは城で防衛をしてたんだから、攻め側にいたなんて間違っているよね?」
「そうよ。何とかならないの?」
トウカは弱弱しい声で、ミサキに救いを求めた。ミサキは顎に手をやり考え始める。
「おい、ミサキ。記憶を消すみたいな便利なことは出来ないのか?」
「記憶を消すくらい簡単よ。私は神なんだから」
「じゃあ、頼む」
「だけどね。この記事をどれだけの人が読んだのか分からないから、その人たち一人ひとり記憶を消すなんて、不可能に近いのよ」
「じゃあ、無理だってことだな」
「えぇ、そういうことよ」
「じゃあ、あたし、どうしたらいいの?」
「なぁ、ミサキ。何とかならないのか?」
「またショウ君の可哀想病が発症したの?」
「なんだよそれ? 兎に角、ミサキの作戦でこうなったんだからな。責任取れよ」
「ショウ君はすぐに他人任せにするんだから。まずは、新聞社に訂正記事を出させることが先決よ」
「じゃあ、新聞社に抗議すれば良いんだな?」
「そんな抗議は通用しないと思うよ。だってここの新聞社ってゴシップで売り上げを稼いでるところでしょ? こんなの日常茶飯事のはずだし、売り上げさえ上げれば平気で嘘でも記事にするようなところだし」
「じゃあ、ぶっ潰してくればいいか?」
「あら、ショウ君って結構好戦的なのね。トウカちゃん絡みだからかな?」
ミサキは、目を細めてショウに言った。
「おい、何だよその目は? ぶっ潰す以外に方法はあるか?」
「そうね。権力でねじ伏せるとか、どう?」
「なんだよ、それ。ミサキの権限でってことか?」
「違うよ。たとえば、城の偉い人に圧力を掛けてもらうとかな」
「ふーん。トウカ? 城の偉い人に知り合いはいるのか?」
「あたしは、まだ城に入って二日しか経ってないのよ。メイド長くらいしか知らないわ」
「メイド長にそれだけの権限があれば良いんだけどな」
メイド長にそれほどの権限があるとは思えない。所詮はメイドの長。メイドのトップに過ぎない。
「ここで考えていても仕方ないよ。一度、城に行ってみたら? ショウ君達に助けになるかもしれないよ」
「まぁ、そうだな。トウカ行くか?」
「分かったわ」
「で、ミサキも行くんだよな?」
「私は行かないよ。みんなを待ってるから。何か良い案があれば考えておくよ」
「じゃあ、頼む。トウカ行くぞ」
ショウはトウカに顔を向けると出発を促した。
「城に行くなら着替えをするわ。メイド服じゃないと城に入れないから」
「そうだな。急いで着替えろよ」
ショウがトウカに急ぐように言う。トウカは頷くとクローゼットから一着のメイド服を手に取り、浴室へと移動する。
「なぁ、ミサキ? オレは城に入れるんだよな?」
先ほどのトウカの発言を受け、城に入れるか心配になったショウがミサキに質問した。
「何言ってるの? さっき城に行ってきたでしょ? もう忘れたの?」
「そ、そうだったな。じゃあ、問題ないってことだな」
「ええ、そうよ。もし駄目なようだったら、ショウ君をメイドに登録してあげるよ」
ニヤケ顔のミサキは本気か冗談か分からない発言をする。
「いや、メイド服なんて着たくないぞ」
「そう? 似合うと思うよ」
「学園祭の余興じゃあるまいし、遠慮しとく」
「着たいときはいつでも言ってよ。着る口述がないと着にくいでしょ?」
ミサキの言う通り、着る口述なくてはただの変態だ。だからと言って着る口述があるのも困る。そう思うとショウからは溜息が溢れた。
そうこうしているとトウカが着替えを終わらせ浴室から出てきた。トウカは完璧なメイド姿になっていた。
「あんた、メイド服着たいの?」
トウカは目を細め、蔑視するかのような目付きをした。先ほどのショウとミサキのやり取りを聞いていたようだ。
「いや、着たくない。そんな恥ずかしい格好ゴメンだ」
ショウ自身は男だ。男がメイド服を着るなどと思い発言した。しかし、トウカには別の意味で汲み取られたようだ。
「あんた、私だって恥ずかしいのよ。もうっ!」
口をへの字にするトウカが不満を漏らした。トウカを不機嫌にさせたショウは不味いと思い、弁明を考えていると。
「ショウ君は、トウカちゃんのメイド服姿を気にっているのよ。アピールのチャンスだよ」
「そ、そう? しょうがないからメイド服で我慢するわっ!」
トウカの気持ちの代わりようにショウが疑問符を浮かべた。しかし、今後のことを考えると、着たくないと言われるよりよっぽどマシだ。特に指摘をしないショウであった。
「じゃあ、トウカ城に行くぞ」
「分かったわ。出発ね」
ショウとトウカは城へ向かうべく、再び部屋を後にするのであった。