12話 第三章 第二節 救出
「面倒なことになったな……。でもあれは確かにログアウトのエフェクトだった。間違いない。連れ去られた女の子の跡を追ってみるか」
ショウ自信もピカピカと光りを放つトウカに話し掛ける予定だったのだが、盗賊に先を越されてしまった。そんなトウカが連れ去られる一部始終を目撃していたショウは、薄暗いスラム街の路地を進み盗賊たちを尾行してる。
そして、トウカがスラム街にある建物に押し込まれた。その様子をショウが遠目で確認した。敵のアジトと思われる建物。粗末な掘っ立て小屋と表現した方がいいだろう。そんな盗賊のアジトにショウは息を殺して近づいた。音を立てないように気を付けながら、ドアに張り付き聞き耳を立てた。
「おい、お嬢ちゃん。さっきの光る魔法は何だ? お前は剣士だろ? 剣士の使える魔法について聞かせろや!」
ショウはドアの向こうから聞こえる微かな声に耳を傾けていた。
「おいっ! 何とか言ったらどうなんだ?」
盗賊の声は次第に大きくなっていた。ショウとしては聞き取りやすかったが、トウカにとっては苦痛でしかないだろう。
いつ、助けに入るべきかショウは考えていた。相手は4人。仲間と合流しているのであれば、それ以上だ。装備から察するにレベルは30ほどで低レベルのようだ。しかし、たびたび服装を偽装するプレイヤーがいることは確かだ。高レベルなのに低レベル装備。嘗なめてかかると痛い目に合う。
しかし、会話の内容を聞くからに上級レベルのプレイヤーではなさそうだとショウは思った。いや、ショウは相手が高いレベルでないのを確信した。普通、高いレベルであれば、多くの魔法を見ているものだ。先ほどのトウカの光る姿はログアウトのエフェクトで間違えることが無い。
そして、突入した時、戦闘だけは避けたかった。ショウには一つ心配なことがあったからだ。それは、ファイアーウォールのゲーム自体が外部と接続されていない状態であるのは間違いない。そんな状態でプレイヤーが死亡した時のことだ。どんな影響が出るのかは、今のところまったく分からなかった。NPCであれば所詮は機械。ほぼほぼ問題など起こらないだろう。しかし、それがプレイヤーであったとしたら取り返しの付かないことなるかもしれない。
ただ1つ言えることがある。犯罪を犯すNPCなど今まで見たことが無い。間違えなくプレイヤーの仕業だ。
しかし、目の前で女の子がさらわれた以上、ほっとけないのがショウの心境だ。
ショウは自分の持つ装備に目を向けた。このまま剣士として突入するべきか、それとも魔道士とし戦うべきか。本職である魔道士になれば、火力があるので戦闘は楽であろう。しかし、高火力魔法には発動までの時間が掛かり、複数の敵に対しては不利だ。全体を巻き込む範囲魔法も考えていたが、それでは女の子を巻き込んでしまう。そして、建物が壊れれば、瓦礫に埋もれてしまう可能性すらあった。ショウは考えた末に剣士として突撃することに決めた。
ショウが真鍮で出来たドアノブに手を掛けドアを開け放った。するとショウの目には、女の子の姿が映った。女の子が奥で椅子に座らせられており、その周りを盗賊たちが囲んでいるのを確認した。
「おい、その女の子を放してもらおうかっ!」
ショウはヒーローらしいセリフを言うと共に、大剣を振り下ろす。
「なんだ、てめぇはっ!」
やはり悪者である。セリフが悪者の常套句そのものだ。
「その子を放してもらえば、危害は加えないがどうする?」
ショウは鋭い目つきをし睨む。そして大剣の矛先を盗賊へと向けた。
「やろうって言うのか?」
盗賊の方も簡単には引き下がらない。
「この剣に免じて許してもらえないか? 出ないとお前達を倒すまでだっ!」
ショウは両手で大剣を構えた。戦闘状態であることを見せ付ける。しかし、盗賊は引こうとはしなかった。
「相手は、一人だ。やっちまおうっ!」
盗賊の一人が声を掛けると、盗賊の仲間達が短剣を抜き構えだした。
ショウは脅しだけで終らせることを望んでいたが、それは叶わないようだ。ショウはプレイヤーが死ぬことについてのリスクが頭の中を過ぎった。しかし、女の子を助けない訳にはいかない。
「手加減はしてやる。だが、死んでも知らんからな」
ショウは、戦闘をすることを決心して、大剣を構えた。
「は? 手加減だ? 舐めるんじゃねぇっ!」
盗賊の一人がショウに襲い掛かって来た。そしてショウは盗賊の短剣を切り払った。盗賊の持つ短剣は手元を離れ、天井に刺さった。
「やるじゃねぇかっ!」
盗賊は捨て台詞を吐くと、別の短剣を用意して、手に持った。
「お前ら、レベルで言うと30そこそこだろ? やめとけ、オレには勝てないぞ」
ショウは大剣を構え直すと、手に力を入れた。ショウは本職でないとは言え、レベル99の化け物だ。基礎ステータスで言えばそれなりにある。そして、チートの大剣。レベル30なんかに負けやしない。
「一度に、襲い掛かるぞ。いいか?」
盗賊達が頷くと、4人が一斉にショウに襲い掛かって来た。
「死ねぇっ!」
ショウは一人目を、大剣を振り下ろし短剣を圧倒的パワーで砕き、二人目は振り下ろした大剣を振り上げ短剣を払い除けた。後ろに回った三人目を蹴りで吹き飛ばすと、残り一人となった。
「わ、分かった。開放しようじゃないか。並みの剣士ではないことは確かだ。穏便に済ましてくれるんだよな?」
勝ち目がないと分かった盗賊の一人がショウに交渉をしてきた。
「ああ、勿論だ」
そう言って、ショウは大剣を下ろした。
盗賊は「放してやれ」と部下に告げ、トウカはショウの元にやってきた。そして、ショウの後ろにトウカが身を隠した。
「今回は、無かったことにしておくが、次は容赦しないからなっ!」
ショウは、脅し効かせると建物を後にする。マントを翻し建物を出る姿は英雄その物だ。