128話 第一章 第七節 靴磨き
ショウとミサキが宿屋に到着した。ショウが自室の扉を開く。
「あんた、遅いわよっ!」
トウカが靴を磨いている手を休め文句を述べた。トウカが磨く靴は先日ショウが買った氷の靴だ。
「あぁ、悪かったな。戻ったぞ」
「トウカちゃん、ただいま」
ショウとミサキが返事をした。するとトウカが再び靴磨きを始めたのだ。
「トウカ、どうしたんだ? 靴なんて磨いて」
「いいでしょっ! もうっ!」
トウカの持つ氷の靴はピカピカに磨かれていた。そのまま舞踏会に出ても申し分の無い輝きをしていたのだ。
「あら、トウカちゃん。それショウ君の買ってもらった靴でしょ?」
「そ、そうよ」
「ふーん、大事にしてるのね」
「だ、大事なんて、そんなこと無いわっ!」
トウカが慌てて靴を床に置いた。そして、足をスルリと靴に通した。
「そんなに汚れてなかっただろ? 磨いたって変わらんだろ」
「ショウ君。トウカちゃんは業と磨いていたのよ。大切にしてるアピールよ」
「ミサキさん。もう、言わないでよっ! そんなんじゃないわ」
トウカは慌てふためいてような口ぶりで否定する。
「なんだそれ? 靴が何だって言うんだ?」
「ショウ君って、もう少しトウカちゃんの気持ちを汲んであげなよ」
「だから何だって言うんだ?」
ミサキは溜息を付き首を振る。まるで分かってないなと言いたげに。
「あんた、城で何してたのよ?」
「あぁ、城の地下牢に行ってたんだ。取調室にな」
「何、あんた? 悪いことでもしたの?」
トウカは取調室に行くことを、悪いことをしたからだと安直に考えたようだ。
「違うぞ。取り調べる側だ」
「そう? てっきり悪いことしたんだと思ったわ」
「何だって、オレを悪者扱いするんだよ?」
「別にいいでしょっ! ふん」
トウカはそっぽを向いた。
「そういえば、あの子、助けてあげられないか? なぁ、ミサキ?」
ショウは、取調室でのやり取りを思い出しミサキに尋ねたのだ。
「ショウ君? まだ言うの? 犯罪者は犯罪者なのよ」
「でも、反省もしてるし、後悔だってしてただろう?」
「後悔先に立たずってことわざがあるのよ。後になって悔やんでも遅いのよ。過去の罪は消えないの。分かった?」
「でも、犯罪を犯す前に止められなかったのはオレ達の責任だ。先に会うことが出来たら、止められたと思うけどな」
「たられば論を言っても遅いのよ。諦めなさい」
「あんた? 何の話してるのよ?」
トウカは取調室でのやり取りをまったく把握していないのだ。疑問に思うのも無理もない。
「あぁ、さっき取調室で話してた子は、昨日の夜、オレにナイフを突き立てた子だ」
「えっ、それって、あんたを人質にした女の子のこと?」
「人質にされたかは、覚えてないが、その女の子だな」
「何でそんな子を庇うのよっ!」
トウカは不満げな顔をした。
「その子が可愛かったに決まってるでしょ?」
ミサキが奸計を抱いているかのような表情をトウカに向けて言ったのだ。
「あんた、女の子ってだけで、デレデレしちゃって」
「デレデレなんてしてないぞ。ミサキ? 誤解を生むようなことを言うな」
ショウはミサキに不満を漏らした。
「その子にも事情があったんだぞ。トウカ、この前初心者サーバーの村に行っただろ? そこの住人の子なんだ。村の税が重いって言ってたな。百姓一揆みたいな物だ。王国に不満があったんだとさ」
「あんた。だからって、城を攻めるのは良くないでしょっ!」
「まぁ、そうなんだけどな。可哀想だったんだよ」
「もう、ショウ君は、何でもかんでも可哀想って、感情論を出さないことね。痛い目を見るよ」
「そんなもんか?」
「そうよ」
「まぁ、しばらくは刑務所の面会に行こうと思う」
「まぁ、それくらいなら良いかな。でも、脱獄の手伝いとかはダメだよ」
「あぁ、分かってるさ」
ショウは、ミサキに釘を刺された。
「そうだ。オレ、まだ飯食ってないんだ。ちょっと飯食ってくるぞ」
ショウは、起こされてすぐにミサキに拉致されたのだ。未だに朝食にありつけていない。もはやトウカがログインしている時刻だ。夕方に近い時間帯だ。
「そう? ショウ君行ってきなよ」
「ミサキは良いのか?」
「えぇ、ここで、他の子を待ってるよ。ショウ君がまたナンパを始めたって報告しなきゃ」
「おい、やめてくれ。話しが拗れるからな」
「どうしよっかな?」
「どうしよっかな、じゃないぞ」
「まぁ、内緒にしておくよ。早く行ってきなよ」
ミサキが不適な笑みを溢した。表情からして信用できそうにない。
「あんた、何であたしを誘わないのよっ!」
「トウカも腹減ったのか?」
「減ってないわよ」
「じゃあ、何だって言うんだ?」
「別にいいじゃない。あたしも行くわ」
「ショウ君、連れてってあげなよ。トウカちゃんが行きたいって言ってるんだから」
「あぁ、分かった。トウカが行きたいって言うなら。行くぞ」
「別に、行きたいなんて言ってないわ」
「だから、何なんだよ?」
ショウは、トウカの言いたいことが全く理解できない。
「しょうがないから付いて行くだけだわ」
「分かった。分かった。行くぞ」
ショウは、トウカが何を言いたいのよく分からなかった。しかし、行くと言うのならと思いトウカを誘い部屋を後にした。