127話 第一章 第六節 メッセージ
ショウとミサキは取調室を後にした。兵に礼を告げ、地下牢の螺旋階段を登り始めた。
「ミサキ? やっぱり何とかならないのか? 可哀想だぞ」
「ショウ君はまだ言うの? 誰にでも優しくするのは良くないよ」
「優しくすることが悪いことなのか?」
「ええ、そうよ。この際、言うけど優しくする相手を絞ることね」
「どういうことだよ?」
「トウカちゃんもツバサちゃんもユウちゃんも同じように扱うべきじゃないってことよ」
「同じでいいだろ? 仲間なんだし」
「そういうことを言ってるんじゃないんだけどね」
ショウは首を傾げるだけで理解が出来ないでいた。
「せめて、あの子の火傷の痕だけで直してやれないか、オレが原因なんだし」
「もう、分かったから。牢屋から出てきたらね」
ショウが粘りが実を結んだようだ。
ショウとミサキは階段を上がりきり、屋外へと出た。
「まぶしいな」
ショウは目を細めて、額に手を当てる。
「まぁ、牢屋ってのは薄暗いのが一般的だからね」
ミサキは慣れて口ぶりだ。投獄されたことが有るのだろうか。
「そういえば、何でオレ達の取調べ相手は女の子だったんだ? 大人の方が事情を知ってるだろう?」
「大半の大人は療養中。残りの無傷の大人は別の兵士が尋問してるはずよ。余ってたのがあの子だったてことよ」
城の憲兵が事情を調べるのは当たり前のことだ。ミサキの言うことにショウは頷いたのだ。
「じゃあ、もう戻っていいってことだよな」
「ええ、そうよ。宿屋に戻ろうか」
ミサキも宿屋に戻ることに賛成したのだ。
ショウとミサキが門を潜り外に出るとショウの元に一通のメッセージが入った。リアルの世界のメールのような物だ。ショウはメッセージを開いた。
『あんた、どこにいるのよ! トウカより』
「おい、ミサキ。トウカからメッセージが来てる」
「なんて書いてあるの?」
ショウは手元に映ったメッセージをミサキに見せたのだ。
「あら? トウカちゃんがログインしたみたいだね」
「まぁ、それは分かるんだが。この内容だけだと意味不明だよな」
ショウは腕を組みながらメッセージを解読しようとする。しかし、これだけしか書かれていないと何とも判断できない。
「ショウ君に会いたいってことでしょ?」
「そうなのか? よく分からないが」
メッセージは連続投稿が出来ないようになっていた。メッセージの連続投稿で困らせるユーザーが過去にいたことで規制が入ったのだ。それ以来、返信しなければ、追加のメッセージは送ることが出来ない。メッセージは基本的にはキャッチボールで行うようになっている。
「フレンドリーコールを鳴らしてくれればよかったんだけどな」
「ショウ君。さっきまで城にいたでしょ? フレンドリーコールは使えないよ。城の外に出た瞬間にメッセージが来たのも同じ理由だし」
「あぁ、そうか。城の中だったな」
城の中ではフレンドリーコールもメッセージも使えない。リアルの世界で例えるなら携帯電話が圏外になったような物だ。城の中は圏外エリアになっている。
「運営の力で、出来るようになるだろ?」
「ええ、出来るよ。だけど、悪用されるといけないから使えるようにするつもりはないよ。暗殺とか厄介だし」
城の中はテロリストを防止するためにフレンドリーコールもメッセージも使えないようにされていた。敵に通信機能を使えるようにするということは、城の警備がおろそかになる可能性を示唆するからだ。
「トウカちゃんに連絡しないといけないでしょ? あまり遅いと怒られるよ」
「あぁ、そうだな。連絡くらい入れてやるか」
ショウはそう答えると、メニュー画面を手元に出し、フレンドリーコールでトウカを呼び出した。
「おい、トウカ?」
『あんた、どこに行ってたのよ? 連絡が遅いわよ』
「さっきまで城にいたんだ。しょうがないだろ?」
『しょうがなくないわよ! 早く連絡しなさいよね』
「分かった。分かった。すぐ戻るから待ってろ」
『早くしなさいよね!』
トウカとの通信がブツリと途切れた。
「なぁ、ミサキ? 何でトウカは怒ってるんだ?」
「トウカちゃん何だって?」
「何だっても、ないだろう?」
「お前、盗聴してたんだよな?」
「ええ、してたよ」
「やっぱりか、で、何でトウカは怒ってるんだ?」
「ショウ君と連絡が取れなかったからじゃない?」
「そんなことでか?」
「そんなことなんて言うとまたトウカちゃんが怒るよ」
「そうなのか?」
「そうよ。ショウ君は本当にどうしようもないね」
「どういうことだよ?」
「言葉の通りよ」
ミサキは、いつもの通り詳細を語らない。
「じゃあ、トウカもログインしてるみたいだから、戻るとするか?」
「そうね。戻りましょう」
ショウとミサキは宿屋の戻ることしたのであった。