115話 第七章 第九節 雷切り
「トウカさん! 大丈夫そうですか!」
ツバサが後ろを振り向きながらトウカに声を掛けた。ツバサは前にいるモンスターと後ろにいるトウカを気にしながらの戦闘だ。モンスターはツバサの一撃で大半が消滅するほどの強さでしかない。しかし、次々とモンスターエッグが投げられ、トウカの加勢には行けそうにない。
「大丈夫だわ。何とかなるわ」
トウカのレベルは34。ツバサとは比べ物にならないくらい弱い。しかし、この世界でのレベル34はエリート兵と同等の強さだ。軍団長クラスが出てこない限りレベルの差で負けることは無い。後は数だ。囲まれないようにトウカは気を付けなければならない。
「トウカさん。相手は、炎対策に重点を置いてるみたいです。昨日覚えた雷切が役に立ちそうです」
ツバサはトウカにアドバイスをする。炎対策ということは、基本的には水属性の装備をしているのだろう。雷属性の雷切りが打ってつけだ。しかも、雷切りには対人においての特殊効果がある。それはスタンだ。こんな形で雷切が役に立つとは思っていなかった。そして今、トウカが持つ剣は和刀だ。雷切の効果を十分に発揮することが可能だ。
「分かったわ。雷切で倒していくわ。ツバサさんはモンスターは頼むわ」
未だに投石器でモンスターエッグが投げ入れられている。しかし、相手はレベル40程度のモンスターだ。ツバサの敵ではない。
「こっちは、任せてください。トウカさんっ!」
ツバサは斧を持つ手に力を入れた。
「斧技! フォーレストダウン」
ツバサは斧を横に振り回したのだ。斬撃を受けたモンスターが光となって消えた。瞬殺されたのだ。
一方、トウカはツバサの後ろで戦闘をしている。
「剣技! 雷切っ!」
トウカの持つ刀に稲妻が帯び、敵を切りつける。敵兵が剣を受けると、感電し地に伏した。これこそがスタンだ。一撃で致命傷を与えることは出来なくとも、戦闘不能にすることは出来るのだ。
トウカは城門から入ってくる敵兵を切り捨てた。トウカの戦果は目覚しいものだ。一撃で敵を戦闘不能にする剣。これほど頼もしい剣技はない。
「ツバサさん、そっちはどう?」
「余裕ですよ」
その通りだ。レベル81のツバサにとってレベル40程度のモンスターなど雑魚でしかない。むしろ過剰な攻撃力で中庭の石畳がボコボコになっている。そちらを気にした方がいいのかもしれない。
そのままツバサは湧き上がるモンスターを倒し続けた。既に数十体もの水属性の敵を倒しただろう。中には炎無効化にする特殊なモンスターも存在した。しかし、ツバサの攻撃は打撃なのだ。心配など要らない。もし、ショウが戦っていたなら、危機に陥ったかもしれないが、ツバサに充てがったさせたのが運の尽きだ。
「トウカさん、モンスターエッグが止みましたので、城の外に出ませんか? 投石器を壊したいですし」
「そうね、こっちも敵が来なくなったみたいだから、行きましょ」
トウカが刀を下ろしながら言った。
「私が先頭を務めますね」
「どこから行くの? 他の門から出るの?」
「いえ、このまま北門を出ますよ」
ツバサは火の海と化した北門の石橋を指差した。
「あれ渡れるの?」
「はい。あの炎はファイアーフィールドで間違いないです。レベル4の魔法なので、私のマジックプロテクトでも十分防げます。トウカさんの氷の靴なら、余裕ですよ」
「そうね、昨日、あいつに焼かれたんだったわ」
トウカは、昨日、剣士に絡まれたことを思い出しているようだ。その時と同じ魔法だ。
「じゃあ、行きますよ」
そう言うとツバサが走り出した。燃え盛る火の海と化した石橋を渡って行く。そして、トウカが後を追った。トウカとツバサは火の海に姿を暗ませた。