107話 第七章 第一節 敵襲
ツバサが執務室へと戻った。白いテーブルクロスが掛けられている丸テーブルにはいくつものティーカップが並べられている。カップに注がれている紅茶からは香りを含んだ蒸気立ち込めていた。
「これでいいですか?」
ツバサが執事長に問う。先ほどお嬢様に指摘された紅茶の入れ方だ。天気や気温によって変わるお嬢様の好みを聞き入っている。昨日なら間違いなく文句を言っているであろうツバサが、今日は文句一つ言わない。何かを忘れたいかのように一生懸命だ。
「いい感じですね。ただ、今日出すべきだった一種類に過ぎません。ついでに、昨日出すべきだった紅茶も学ばれますか?」
「はい」
ツバサはやる気充分だった。とにかく何かに没頭したいともとれた。それから、もう一種類のお茶の出した方を学び始めた。一度学んだ後だからなのか、次のお茶の習得にはそれほどの時間を要しなかった。
「これだけ出来れば大〈たい〉したものです。ただ、季節を踏まえてのお茶選びになりますと、数十を越えてきますので、これから少しずつ覚えていきましょう」
「はい。分かりました」
あれほど、お城を嫌っていたツバサが文句一つ言わない。昼間のことが影響しているのだろうか。その時だった。窓の外で火炎があがった。
「あ、あれって……」
ツバサは窓の外を見て驚きの表情を浮かべた。
「敵襲でしょうね」
執事長が淡々と答えた。ミサキの読み通り、城が攻撃されているようだ。
「ロッカーからアイテムボックスを出して来てもいいですか?」
ツバサが執事長に許可を求める。ツバサのアイテムはロッカーの中だった。一刻も早く武器を手にせねば、皆が危ない。
「ロッカーまでの道中が危険です。それに執事に何が出来るというのでしょう? ここに居るのが賢明かと」
「でも、ロッカーにある私の武器を……」
ツバサが言葉途中に、目を見開いた。ツバサの瞳に映る壁に飾られている武器の数々。
「執事長? あの剣をひとつ借りてもいいですか?」
ツバサは壁に飾られた、勝利の剣を指さし言った。
「ここに飾られている武器、全てがレベル40の物です。限られた人しか持てません。諦めて下さい」
「持てれば、借りられるってことですよね」
そう言うとツバサが壁に掛けられた勝利の剣を掴み、振るった。
「なんと! ツバサ君はその若さで、レベル40だというのかね」
執事長は驚きのあまり、しゃべり方がおかしくなるほどだ。それほどまでにレベル40は珍しいのだろう。しかし、ツバサのレベルは40を遥かに越えたレベル81。常人にはたどり着けない存在だ。
「では、少しお借りします」
「ただ、あなたは、執事なのですよ。兵士ではありませんので無理はなされないように」
「はい、分かりました」
ツバサは生き生きとしていた。武器を取った瞬間からまさに水を得た魚のようだ。ツバサは執事という皮を被った戦士だ。
ツバサが執務室を後にする。窓の外では不気味な火炎が立ち上っていた。