100話 第六章 第二節 喧嘩
ショウが椅子にもたれ、うたた寝をしている。そんな時だ、窓際でログインのエフェクトが発生した。光りの中からトウカの姿が現れた。
「あれ? あんた寝てるの?」
トウカがショウに話しかける。しかし、ショウからは返事がない。寝息を立てるのみだ。
「あんた? カゼ引くわよ」
トウカはそう言うと、クローゼットの前へと移動をする。クローゼットを開けると中から一枚のブランケットを取り出した。
「あったわ」
トウカがブランケットを片手に、ショウの元へと移動した。その時だ、またしても、窓際でログインのエフェクトが発生した。どうやら今度はツバサがログインしたようだ。
「トウカさんこんにちは。何されてるんですか?」
「あ、ツバサさん。こんにちは。あいつ寝てるからブランケットをかけてあげようと思ったのよ」
そうトウカがそう言うと、ツバサが目を丸くして焦りの表情を浮かべた。
「ト、トウカさん。私が掛けますっ!」
ツバサがトウカの持つブランケットを勢い良く取り上げた。トウカは突然のことに驚き、ポカンと口を開けるのみだ。
そして、ツバサがブランケットをショウに掛けようとする。しかし、ブランケットの掛け方が普通ではない。少し離れたところから、ブランケットを広げ、放るようにしショウに掛けた。空中を漂うブランケットはショウの左肩と右肩に乗った。しかし、右肩に乗ったはずのブランケットはすぐにずれ落ち、上手に掛けることが出来なかった。
「あっ」
ツバサはブランケットがずり落ちると、しまったと言わんばかりに悔しさを口に出した。
ブランケットを掛けることに失敗したツバサは、まるで汚いものを掴むかのように指先でブランケットを拾い上げる。すると、またしても、ブランケットを放ってショウに掛けようとするのだ。今回は上手く行ったようでブランケットがショウの両肩に乗り、ツバサは安堵の息をつく。
その様子をトウカが不思議そうに見つめていた。どうしてブランケットを投げ、ショウに掛けようとしていたのだろう。
「ツバサさん? どうしたの?」
「い、いえ。何もないですよ」
ツバサが早口で受け答えた。どうも様子がおかしい。口調が変だ。明らかに動揺しているように聞こえた。しかし、トウカはそれほど気にはしていないようだ。
「それにしても、あいつの寝顔少し可愛いわね」
トウカはそういうと、人差し指を伸ばしショウの頬を突っつこうとした。その時だ。
『パチンっ』
トウカの手をツバサが叩いた。トウカは目を丸くして驚いた。そして、トウカがツバサを睨む。
「ツバサさん、何するのよ、いきなり」
「あの……。えーと……、その……」
ツバサは返事が出来なかった。普通ではない。明らかにおかしい。何かを隠しているようだ。
「ショウ先輩の寝てる時は触らないで下さい……」
ツバサは叩いた右手を押さえ込み、うつ向きながら言う。
「どういうことよっ!」
トウカは怒り心頭のようだ。なぜ叩かれたかの説明になっていない。理由が分からないのだからも無理もない。
「ショウ先輩が起きてる時なら、何してもいいですから……」
元気がなくツバサが言う。まるで生気がない人形のようだ。
「わかったわ。ツバサさん後悔しないでよねっ!」
トウカは怒り口調で言い放った。まるで何かを企てているような含みのある言い方だ。
「は、はい……」
ツバサは寂しそうではあるが承諾したのだった。