99話 第六章 第一節 目覚め
「ショウ君、起きなさいよ」
幸せそうに寝ているショウの頬に弓の先端が食い込む。弓を手にするのはミサキだ。なんとも悪そうな表情を浮かべ、さらに弓を持つ手に力を込める。ショウの頬が海溝のように沈降した。
「なんだ、ミサキか」
眉をへの字にし不満な顔をするショウ。ミサキの弓を手で払いのけながらため息をついた。
「なんだじゃないよ。もう昼過ぎよ」
ショウは深い眠りに就くことが出来た。今朝はユウの甘い香りに悩まされることがなかったからだ。ユウの香りを纏った布団は昨日のベッドメイキングにより新しくされていた。お陰様で今日はぐっすりと眠れた。
「てか、ミサキ。もう少しちゃんとした起こし方はないのか?」
ショウが弓で突っつかれていた頬を手で触った。えくぼが出来ている。えくぼと言う名の弓の跡だ。
「ショウ君? 目覚めのキッスが良かったの?」
「な、なんでそうなるんだ?」
「だって、ちゃんとした起こし方って言ったじゃない」
「それは、全然、ちゃんとしてない」
ショウがクレームを言う。また、エロいなどと言われたくないからだ。
「そう? 折角なら、このやり取りをトウカちゃんやツバサちゃんに聞かせたかったよ」
「なんでそうなるんだ? そんなことするとまたあいつらの機嫌が悪くなるぞ」
「あら? ショウ君自覚あるんだ」
「なんだそれ? どうやら、オレは女の敵らしいからな。よく分からん」
「やっぱり自覚してないのね」
「なんだそれ?」
ため息を付くミサキは何も言わなかった。
「それより、ショウ君。投石器と攻城用のハンマーが流出していたよ」
「ユウの言った通りか?」
「えぇ、そうだね。あの子やっぱり切れ者なのね」
「あぁ、あいつな。なかなか賢いんだ」
「これで、間違いなく城が攻められるよ。どうしようね?」
「どうしようじゃないだろう? 止めるんだよな」
「そうね」
「城で迎え撃つのか?」
「できれば、先に抑えたいんだけどね」
ミサキが腕を組み考える。
「投石器なんて馬鹿デカい物、どこかに隠したとしても、すぐに分かりそうなんだがな」
「ショウ君は、ちょっと勘違いしてるよ」
「どういうことだよ」
「あのね、この世界だとアイテムボックスがあるのは知ってるよね?」
「知ってるも何も、いつも使ってるぞ」
ショウが、腰のポーチを叩き存在を示した。
「そうでしょ? で、アイテムボックスのアイテムって手に持ちきれないほど入るよね?」
「そうだな。まさかアイテムボックスに投石器が入るってことか?」
「そこまでの物は入らないよ。何たってアイテムボックスは重量制だからね」
「まぁ、そうだな。じゃあ、やっぱりどこかに投石器がしまってあるんじゃないのか?」
「そうとは限らないよ。たとえば多少大きなアイテムボックスがあれば入っちゃうのよ」
「商人のリュックみたいなヤツか?」
ショウはトモの姿を思い出して言った。
「商人のリュックにも入らないよ。たとえば馬車の荷台とかね。あれは大型のアイテムボックスなのよ」
「じゃあ、建物と馬車の荷台を探せばいいんだな?」
「馬車だけとは限らないのよ。荷台だけ隠せばどこにでも置けるし、船に積んで隠す可能性もあるのよ」
「じゃあ、探す場所が莫大だってことか?」
「そういうことよ。だから困ってんじゃない」
「なら、オレも探しに行った方が良さそうだな」
「そうだね。だけど、城の中の警備をするトウカちゃんとツバサちゃんが気になるのよ」
「あいつらなら、大丈夫だろう?」
「レベル的にいっても申し分ないよ。でも、装備だけはしっかりしておいたほうがよさそうだよ」
「まぁ、そうだな」
「だから、二人がログインしたら、装備を買いに行ってもらえる?」
「あぁ、分かった。あと数時間すればログインしてくるだろ」
「そうね。私は行くから、よろしくね」
「あぁ、分かった。気を付けてな」
「ふーん。心配してくれるんだ」
「そりゃ、そうだろう。気をつけて行ってきな」
「何かあったら連絡するから。じゃあね」
ミサキはそう言うと、部屋を後にした。そして、ショウは椅子に腰掛け、うたた寝を始めた。