9話 第二章 第三節 タイムリミット
幾分か時間が流れた。ショウの無双は未だに続いている。
「PKも慣れるとこんな気分なのか」
ショウは淡々と口にした。始めは罪悪感に苛まれるショウであったが、数をこなすに連れて罪悪感は薄れ、逆に最強を示す高揚感が生まれてきた。倒した敵の大半が男性キャラであったのも良かったのかもしれない。女性キャラを倒していたら、それなりに罪悪感を感じていたかもしれない。しかし、女性キャラはただの1人だけだった。
この世界での性別とリアルの世界の性別は原則同じものとなっている。運営からの回答では、この世界に意識を移してゲームをするため、ゲームでの動きに慣れてしまうとリアルの身体の動きに支障が出るとのことだ。そのため、骨格が異なる異性のキャラを選ぶことが原則出来ない。当然、太ったキャラを操作するプレイヤーはリアルの世界でも太っていると言うことだ。
そして、敵の数は残りは2人になっていた。
ショウは黙々と敵を倒し続けた。残り2人ということは、もうすでに12人を倒したことになる。しかし、タイムリミットはもう間近。あと1人が倒せるかどうかも怪しくなる時間となっていた。
次の敵は建物の中だった。建物の入り口へとショウが近づく。そしてドアを開け放った。
「なんだお前は? まだ作戦時間じゃないぞっ!」
敵の魔道士が話しかけてきたが、もう時間が無い。ショウは躊躇うことなく魔法唱える。
第九クラス炎魔法――グラム――
ショウの手元の炎のナイフが現れる。そして、魔道士に斬りつけようと接近する。ナイフの刃が届こうとした、その時だ。
「うわぁー」
黒い魔道士がうめき声を上げた。しかし、ショウの魔法で出来た炎のナイフの刃先は敵に触れていないように見えた。しかし、黒いマントの敵は消滅してしまった。
今までと違う点は他にもあった。それは装備を落とさなかったことだ。今までの敵は倒した後に必ず装備を落とした。しかし、今回は違っていた。武器も防具もマントも消えてしまった。
ショウは疑問に思う。しかし、消えてしまった物は致し方ない。深く考えることはなかった。そして時間を確認すると先ほどタイムリミットを過ぎたことに気が付いた。ゲームの回線が切断される時間となっていた。
「一応、オレは生きてるんだな?」
そう言うと。ショウは自分の頬を手でつねった。ゲームの回線が切断されても生きていることを確認するためだ。
「よし、生きてる」
ショウは生きてるということを再度確認した。そして、マップ上の一つ残っている青い点を見つめた。
ショウは一人残してしまったことを悔いた。最後の一人を救うことが出来なかったからだ。この世界に残ったままという事実がどのように影響するのかまだ分からない。しかし、回線が閉ざされた以上、無益なPKは行うべきではないと思いマップを閉じ、炎のナイフを消してみせた。
それにしても何も変わっていなかった。雲を纏う地面もあればギリシャ神話を思わせる建物もそのままである。唯一、気が付くことはプレイヤーがいないことくらいだろう。プレイヤーがいないのは皆ログアウトしたからだとショウは思った。
そんなショウが、ふと心配になった。それは、仲間達がログアウトしているか、どうか。
ユーザー補助――フレンドリスト――
ショウがユーザー補助を使い、フレンドリストと呼ばれる画面を目の前に表示させた。
「フレンドリストが消えてる!?」
――フレンドリスト――それは、友達登録帳と言ったところだ。リアルの世界の携帯電話のアドレス帳みたいな物と考えればいい。そして、名前を登録していけば相手のログイン状態が分かるようにもなっている。黒い背景に白文字でログイン中を表す。運営が見やすいようにと配慮した結果であろう。そして、灰色文字ならログアウト中を表す。――参考文献『初めてのファイアーウォール中辞典』より――
しかし、ショウが見たフレンドリストには白色文字でも灰色文字でもない、真っ黒な状態になっていた。フレンドリスト内の仲間が全て消えてしまっていた。明らかにバグの類いだろう。これはサーバーのアクセスが遮断された不具合なのでは、と思うしか無い。
ショウは不思議に思っていたが、サーバーの切断でどのようなことが起こるのかは皆目見当が付かない。ショウは今ある現実を受け入れるしかなかった。
そして、ショウは自分の姿のことを思い出した。さすがに下着にマント姿はまずいと。マントを前で縛っているので辛かろうじて露出狂にはなっていなかったがこのままでは不味い。
ショウはふと気が付いた。始めの剣士もそうであったが、鎧とならマントと着重ねが出来ていた。
ショウはアイテムボックスから剣士の黒い鎧を取り出した。そして鎧を身体にあてがう。すると簡単に鎧を装備することが出来た。魔道士のローブは弾かれたのに関わらず不思議な事態だ。ショウも驚きの表情が隠せない。
ショウは魔道士でありながら一国の将軍クラスが装備するような、重々しい黒い鎧を装備することとなった。ショウの気分はすでに剣士だ。
それならと思い、ショウは大剣を握りしめる。
そこには漆黒の大剣を装備した剣士ショウの姿があった。
『シュッ! シュッ!』
ショウは正に剣士である。素振りもなかなかのものだ。
服装の悩みが解決したショウは思考を別に移した。そう、一人プレイヤーを残してしまったことについて。仲間の存在、裸マントという格好についての考えが長くなり残党のこと忘れていた。
ショウがマップを取り出し確認するとゲート付近でプレイヤーを示す青い点が消えてなくなった。
「しまったな」
ショウが呟いた。ショウは遊んでいるうちに取り逃がしてしまったようだ。
この天空界には既に人がいない、何も情報が入らないこの場にいても、どうしようもなかった。ショウは別サーバーに移動することを決心する。
ショウは大剣を携え、堂々とした足取りで天空界のゲートへ移動を始めた。