てんごくのアイス売り
青い空に浮かぶ白い雲の上に、“天国”がありました。
そこは、“冷たい”“悲しい”“つらい”そういう気持ちが無い世界です。
そこで自転車に乗って、毎日アイスを配っているおじいさんがいました。
チリリン、チリリン
ある日おじいさんは鐘を鳴らしながら、公園の前を通りかかりました。
公園には一人、ボールで遊んでいる男の子がいます。その顔は、とても寂しそうで、おじいさんは『何とか元気づけたい』そう思いました。
「そこの坊や、アイスはいらんかね?」
おじいさんが近づいてニコニコと話しかけると、男の子は一瞬ビックリしてボールを地面に落としました。
男の子は、しばらく怯えて黙っていましたが、ずっと笑顔のおじいさんにホッとしたのかゆっくり頷いて笑いました。
「……うん、ぼく、アイス大好きなんだ! 食べてもいいの?」
「もちろんだよ。好きなだけお食べ」
おじいさんはアイスを一つ取り出すと、それを男の子に渡しました。男の子は受け取ると、ぺろりと嬉しそうにアイスをなめました。
だけど、一口なめて驚きました。そのアイスは、“冷たく”なく“あたたかい”のです。
「おじいさん、どうしてこのアイスは冷たくないの?」
不思議に思った男の子は、見上げておじいさんに尋ねました。
すると、おじいさんはカラカラと笑ってゆっくり話し始めました。
「それはね、この世界では“冷たい”って事を感じられないからだよ」
「じゃあ、どうしておじいさんはアイスを売ってるの? 冷たくなきゃアイスじゃないよ!」
不満そうに頬をふくらませて、男の子は持っているアイスをにらみつけました。
そんな男の子を見て、またおじいさんはカラカラと笑いました。
「そうだねぇ、あたたかいとアイスじゃないねぇ……。だけどね、坊や。私が元気だった頃はアイス売りの仕事をしていたんだ」
「だから、おじいさんは今もアイスを売ってるの?」
「そうだよ、君のような子供たちを笑顔にしたくてね。アイスを渡した時の、あの笑顔がたまらなく好きでねぇ……忘れられなくて、ここでもアイスを売っているのさ」
おじいさんの話を聞いて、男の子はもう一度アイスをなめてみました。
「……やっぱり、あたたかいや。でも甘くておいしいよ!」
今度は、にっこりと笑って。男の子はおじいさんを見上げました。
「そうかい、そうかい……それはよかった」
嬉しそうにおじいさんは、男の子の頭を撫でました。
そして、男の子はある事に気付きました。
「どうしよう、おじいさん……ぼく、お金を持ってないんだ」
困った顔をする男の子に、おじいさんは言いました。
「いいんだよ、さっき言っただろう? “君のような子供たちを笑顔にしたい”って……だからお金は、坊やの笑顔だよ。きっと、まだこの世界に慣れていなくて、寂しかったんだろう?」
おじいさんの質問に、男の子は小さく頷きました。
「……うん、ぼくね、まだここに来たばかりで友だちがいないんだ……」
「大丈夫、ここの人達は“あったかい”から…すぐに君にも、友だちができるよ」
「……ほんと? すぐ友だちできる?」
「ああ、私はずっとここで笑顔の子供たちを見てきたんだ。嘘はつかないよ」
おじいさんの言葉にホッとしたのか、男の子は笑いました。
「……うん、わかった。ぼく、がんばってみるね! おじいさん、このアイスありがとう!」
男の子は笑顔でおじいさんに手を振って、公園の出口に向かって走り出しました。
「気をつけてな、今度は新しいお友だちと私のアイスを食べにおいで」
おじいさんは、走っていく男の子を笑顔で手を振って、見送りました。
男の子の姿が見えなくなるまで、ずぅっと。
青い空に浮かぶ白い雲の上に、“天国”があります。
そこは、“あたたかさ”が溢れる世界です。
チリリン、チリリン
鐘を鳴らして、おじいさんは今日も笑顔で子供たちにアイスを配っています。