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策謀の先には

 このとき、レイラの暴走も告白も身代わり(フェイク)を立てた二人は完全に把握していなかった。だからこそ王と家督を息子に譲った老人は対処が遅れた。

「何があった?」

 何も知らぬ王は、執務室に飛び込んできた臣下へまず目線で問い。

「あの出来損ないめ、今度は何をしでかした!」

 最初の一件だけは把握していた先のギルバーオレスト公爵は思い通りぬ動かぬ人形(レイラ)に憤り、知らせを持ってきた家来の前で机をたたいて怒りをあらわにした。


「あやつの失態、王女に庇われ事なきを得たと言うが……いつまでも取り繕うわけにはいくまい」

「では、やはり分家から?」

「うむ、目星はつけて――」

「――様ぁ! い、一大事です、若君が!」

 老人の元に知らせが届いたのは、先の一件で人形(レイラ)の放置に危険を感じたレイラの祖父が次の手を打とうとしたところであったのだ。


「息子からレイラに家督を譲らせ、急病と偽りレイラを軟禁する。軟禁中に男をあてがい子を産ませ、レイルが生ませた子と称して生まれた子をゆくゆくは当主に据える」


 それはやはり情のない措置だが、公爵家の血は受け継いでおり家の安泰を考えるだけなら問題ない策だった。あてがう男の選定も済ませ、今から候補者の名を挙げて実行に移すのみだったというのに、老人の計画は白紙に戻さざるを得なくなった。

「おのれ、生かしておいてやった恩を仇で返す気か!」

 だからこそ老人の怒りは収まらない。

「どういたしましょう? まさかあのような大胆な行動出でるとは……」

「そもそも何を考えているやら」

「陛下や姫様はどうなさるおつもりなのでしょう?」

 狼狽する者、唸る者、頭を抱える者。老人とて主である王の反応やただの身代わりとしか見ていなかったレイラがどう動くかは読めず、家臣達へは答えようがない。

「それよりもまずすべきことがあろう?」

 だが、手をこまねいていては事態の悪化を招くと老人は知っていた。孫の思わぬ行動でアドバンテージを握られたが、こういう時のために老人はレイラに一人の侍女をつけていたのだ。

「幼いときから共にあった侍女なら情も残っていよう」

「なるほど、人質ですか」

「うむ、あの使用人を少々かわいがってやれば、あやつに出来ることは二つよ」

 侍女の為に老人の忠実な人形に戻るか、血迷って侍女を助けに乗り込んでくるか。

「その為にわざわざ使用人をつけてやったのだ。侍女はまだあやつの屋敷に居ろう?」

「では直ちに」

「うむ」

 まさか本家の人間が人質にするため自らの身柄を確保しに来るとは当の侍女(アンナ)も思っていないだろう。老人は確信していた、レイラへの人質を手中に収めることでなる事態の収拾を。

「同じような真似を今後しでかすとは思えぬが対策も練っておかねばならぬ」

 主人の様子に胸騒ぎを覚えたアンナが理由をこじつけて既に城へ向かっていたなど、知るよしもなかったのだ。


「何、城へ向かったと?」

「はぁ、レイル様に届け物を頼まれたそうで――」

 結果、レイラの家の家宰からアンナが城に向かったことを聞いて私兵部隊を束ねていた男は驚き、引き連れてきた部下の半数を率いて後を追いつつも、報告のため一部を本家へ返し、念のため残りの部下をその場に待機させる。侍女の身柄(ひとじち)の確保に向かった男は決して無能ではなかった。標的の侍女は武術の心得があるわけでもなく、人数を減らしても確実に手中に収めることを重視したのだ。

「ゆくぞ、なんとしても捕らえねばならぬ」

「「はっ」」

 短く答えて男に従う兵は五名。任務が任務だけに人目を惹くわけにはいかず、ギルバーオレスト家の兵と悟られるわけにも行かない。少人数の兵達は傭兵や商店の用心棒といった態に身を変え、人気のない裏道を城へと急いだ。

「いたぞ、あそこだ!」

 城に向かったのは、自身が人質にされるかもしれないと悟ってのこと。男はアンナが城に向かっている理由をそう判断し、騙して連れて行く事(おんびんなしゅだん)は無理と既に切り捨てていた。

「えっ」

「我々と来て――」

 力ずくで拉致しようと驚いた顔の侍女めがけて部下と共に駆け出し、硬直して佇むアンナの姿に任務の達成を確信したとき。

「よいしょ」

「も゛っ」

「っ」

「わわっ」

 転がってきた大きな樽にぶつかり、後続の部下に衝突されて男は派手に転倒する。

「いやいや、こんな朝っぱらから人攫いとは感心しないなぁ」

「おのれ……」

 身を起こそうとする男達に殺意のこもった視線を向けられつつ、のんびりと黒髪をかき回したのは一人の騎士。

「ミゲル様……」

「アンナさん、レイルに会いに来たんですね? ここは何とかするから先に用事を済ませてくるといい」

 レイラと同じほぼ同じ団章を身につけた騎士は同僚の侍女が返事をするのも待たずに側にあった大樽を蹴り転がしていた。




「……参ったなぁ、部下に仕事を押しつけて逃げてきたのに」

「大隊長! 探しましたよ」

 頭をかく黒髪の騎士は、レイルの同僚ではない。同僚だったこともあるが、騒ぎを聞きつけて駆けつけてきた騎士が呼んだ通り、今では上司にあたる。

「やっぱり捕まったか」

 正体不明の男六人と町中で立ち回りをやらかせば騒ぎにならない方がおかしい。

「って、何ですかこの男達は?!」

「いや、私にもわからないんだが、レイルのところの使用人に襲いかかろうとしてたのでね」

「何だかきな臭いですね」

「まったくだ、もっとも首をつっこんでしまったら大事になりそうだって私の勘が告げてるんだけど……っとうわっ!」

 ミゲルは肩をすくめながら大樽に寄りかかると、自分の倒した男達のように盛大にひっくり返った。

「痛たた……この樽も空だったのか」

「……大隊長」

「そんな目で見ないでくれよ。あ、そうだ。この連中の移送手伝ってくれないか?」

 ミゲルは誤魔化すように苦笑しつつ立ち上がると、気を失って転がっている男の一人に目をやった。



新キャラ登場です。

あまり増やすと管理とか大変なんですが、彼は外せないキャラなので。

さて、かろうじてアンナは窮地を脱しましたが、このままおじいさまが黙っているとは思えません。

この先どうなることやら。

そんな感じで続きます。

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