表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私を捨てるんですか? いいですよ、別に。元々あなたのことなんて、好きじゃありませんので。  作者: 小平ニコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/10

第4話

 ブライアンは、小さく首を振って答える。


「俺には、わからないよ。……きみの前で言うのもなんだけど、彼女とは、確かに愛し合っていたし、少なくとも当時は、俺たちの間に、炎のように燃え上がる愛情があったとは思う。でも、そんな彼女の心も、俺の家が没落していくと共に離れて行った。信じられないくらい、あっさりとね」


 ブライアンは、深く重たいため息を漏らした。

 そして、どこか遠くを見るような瞳。

 過ぎ去ってしまった、幻の愛の日々を、思い起こしているのだろう。


「その時の俺のみじめさと言ったら、酷いものだったよ。愛する人を失い、俺の家は、貴族たちからの信用も失って、父に責められ、母に責められ、弟なんか、剣を抜いて切りかかってきたくらいだ。本当に、生き地獄だったよ。ローラリア、きみに身勝手な態度を取った報いだな」


「…………」


「おっと、話を戻そう。……結局、俺と『例の彼女』の間には、『本当の愛』なんて存在しなかったんだろうな。『本当の愛』があったなら、男と女の心が、あんなにも簡単に離れてしまうことはないだろうから。俺はきっと、『本当の愛のかけら』すらも掴むことができなかったんだと思う……」


「そう。……ブライアン、『本当の愛』って、本当にあると思う?」


「わからない。でも俺は、いつかは『本当の愛』を手に入れ、幸福になりたいと思っているよ」


 私は、頷いた。

 それに関しては、ブライアンと同じ気持ちだった。



 それから数日後。


 晴れ晴れとした気持ちいい日中。


 しばらくぶりにうちに遊びに来た、従兄のアークハルトお兄様と、私は庭園でティータイムを楽しんでいた。アークハルトお兄様は、お茶を一口飲むと、長い髪をかき上げ、少しだけ呆れたように言う。


「……それで、ブライアンを許してあげるように、他の貴族たちに対する『気持ちの表明』をしてやったのかい? 優しいなあ。あんな身勝手な男、もっと苦しめてやればよかったじゃないか」


 私も一口お茶を飲んでから、首を左右に振る。


「優しいっていうか、私、別に、もともとブライアンに対して、怒ってなんかいないのよ。そりゃ、婚約破棄のときの彼の態度に、ちょっとムッとはしたけど、ただそれだけ。ブライアンがもっと苦しめばいいとか、そんなこと、少しも思っていないわ」


「ふうん」


「私ね、本当に、彼のこと、嫌いでも、好きでもないの。……もの凄く冷たい言い方をすれば、どうでもいいのよ。その、どうでもいい人が、身も心もボロボロになった哀れな姿で泣きついてきたら、別に、助けてあげてもいいでしょ? だって、どうでもいいんだから。私、どうでもいい人に意地悪するほど、歪んだ人間じゃないつもりよ」


「ふふ、そうか。『どうでもいい』ってことは、わざわざ苦しめてやる価値もないってことか。それはそれで、『嫌い』よりも、遥かに冷酷な感情なのかもしれないね。知ってるかい? 『好き』の反対は、『無関心』らしいよ」


「いやだわ、アークハルトお兄様。それじゃ私が、もの凄く冷酷な人間みたいじゃない」


 そう言って、私は小さく頬を膨らませた。


 自分でも子供じみた仕草だと思うが、子供の頃から兄妹同然の付き合いであるアークハルトお兄様の前だと、自然と童心に帰り、口調は砕け、他の人には見せられない態度を取ってしまう。


 私にとってアークハルトお兄様は、最も気安く話ができる異性だろう。


 アークハルトお兄様は、ちょっぴりムッとした私をなだめるように、朗らかに微笑んで、言う。


「ははは、悪かった悪かった。お前のことを冷酷だなんて、思っちゃいないよ。本当に冷酷な人間なら、ブライアンの奴を助けてやったりしないだろうからね」


「もう、お兄様ったら、いつも私をからかうんだから。……それで、どう? ブライアンの信用は、少しは回復したかしら? アークハルトお兄様なら、社交界の動向に詳しいから、知ってるでしょ?」


「そうだね……まあ、以前よりちょっとだけマシになったってところかな。奴の婚約者であったお前が『許してあげて』って言っている以上、いつまでも叩かれ続けることはないだろうが、失った信用というものは、そう簡単に取り戻せるものではないからね。これから家を盛り返していけるかどうかは、奴自身の頑張り次第だろう」


「そう。現実は厳しいのね」


「自業自得さ。僕の可愛い従妹を袖にした男だ、当然の報いだよ」


「可愛い従妹ねえ……その割に、最近、うちに来てくれなかったじゃない」


「それは、お前、仕方ないだろう。ちょっと前まで付き合ってた子が、凄いヤキモチ焼きでな。僕がお前と一緒にいると、怒るんだよ。その彼女とも、晴れてお別れしたので、こうしてまた、愛しい従妹とお茶ができるようになったと言うわけさ」


「ヤキモチ焼きですって? アークハルトお兄様の彼女って、家庭的で、凄くおおらかな人じゃなかった?」


「それは、前の前の彼女。もうとっくの昔に別れたよ」


「このチャラ男貴族……」


「恋多き男と言ってほしいね。それに、お前だって、ブライアンとの婚約を破棄してから、色々な男と付き合ってたじゃないか」


「うん……『本当の愛』っていうのを求めて、積極的に恋をしてみたけど、なんか、全然ダメだった。結局、誰とも長続きしないのよね。そこそこ好きにはなれるんだけど、愛するってところまでいかないって言うか……はぁ……『本当の愛』を手に入れるのって、難しいわ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ