第10話(ブライアン視点)【完結】
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あれから、どれだけの時が流れたことだろう。
ワシは、一人だ。いつも、一人だ。ずっと、一人だ。
ワシは今でも、『本当の愛』を探し続けている。
渇く。
渇く。
心が渇く。
決して満たされることのない、渇き。
もう遥か昔。
ケイティと一緒だったときは、満たされていた、渇き。
若かりしあの時。
二人、一緒にいるだけで、幸福で、幸福で、満たされていた。
ああ。
満たされない。
満たされない。
もう二度と、満たされることはない。
ワシはずっと、霧の中をさまよっている。
隣には、誰もいない。
金だけは、使いきれないほど、ある。
だが、隣には、誰もいない。
ワシはこのまま、一人で朽ち果てるのだろう。
……ワシはかつて、婚約者であったローラリアに愚かな振る舞いをした。
それも、二度も。
一度目は、身勝手に婚約を破棄したこと。二度目は、自分の立場が悪くなってから、彼女の気持ちも考えず、婚約を結びなおそうとしたことだ。
しかしローラリアは、ワシを許した。
だから、家族は路頭に迷わずに済んだし、ワシ自身も、商人として成功することができた。
ワシは知った。
人が人を許すという、慈悲のすばらしさ、そして、ありがたさを。
しかし……しかしワシは……
ケイティを、許すことができなかった。
自分は許されたというのに、どうしても、ケイティを許せなかった。
彼女を疑いながらも、心の深いところでは、ケイティが本心からワシの身を案じ、駆けつけてくれたとわかっていたのに…
だが、ワシは……ワシは……もう一度、彼女を信じるのが怖かった。恐怖は怒りとなり、ワシは、必要以上にケイティを拒絶した。
あれは、本当に、痛恨の間違いだった。
愚かなことばかりしてきた人生だが、あれはまさに、究極の愚行だった。
ケイティが離れていったことで人間不信になったとはいえ、せめて一度は、彼女を許し、受け入れるべきだったのだ。……そうすれば、時間はかかったかもしれないが、ケイティには邪な企てなどなく、心からワシを愛してくれているのだと理解し、ワシもまた、ケイティを愛することができただろうに……
そう。
これが、ワシの犯した、最大の罪。
『自分は許された』のに、ワシは、ワシは、ケイティを『許さなかった』
それだけではなく、ワシは手切れ金を放り投げ、ケイティの心をズタズタに傷つけた。それが間違った選択だと、すぐに気がついたのに、彼女を追うことも、謝ることも、しなかった……間違いを認めるのが、怖かったから……
自業自得だ。
今の孤独は、すべて、自分の行動が招いた結果なのだ。
ケイティがワシに対して向けてくれた、『確かにそこにある愛情』から目を背け、幻想にすぎない『本当の愛』を探すことに逃げたワシには、お似合いの末路だ。
幸せになるチャンスは、あった。
だがワシは、そのチャンスを、掴もうとすらしなかったのだ……
ケイティ……きみの愛情を踏みにじって、すまなかった……
終わり
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
ハッピーエンドのローラリアとは正反対に、ケイティを傷つけたことから目を背け、幻のような『本当の愛』を探し続けた結果、孤独に老いてしまったブライアン。……しかし最終回の独白では、あれほどやかましく喋っていた、彼の心の中の『人間不信』が、一言も喋っていないんですね。
そしてブライアン自身も、自らの罪を認め、ケイティを許さなかったことを間違いとして悔い、最後には『本当の愛』など幻想にすぎないと理解して、ケイティに謝罪している。このとき彼は、やっと、長い間苦しんできた二つの呪い――『人間不信』と、『本当の愛』を求める心から、解放されたのです。
年をとっても、彼の人生には、まだ残りがあります。
呪いから解放されたブライアンは、その残った人生の中で、ささやかな幸せと、本当でも嘘でもない、誰かからの愛情を受け取ることができるかもしれません。




