第2話 パンジー
歯を磨いて、制服に袖を通す。
鏡の中の自分は、
1年前の自分とは全く違うように見える。
先生から勧められて入った生徒会。
断る理由もなく、
断る勇気もなく、
なんとなくみんなの視線に逆らえなかっただけだったけど。
生徒会に入ってから、朝が嫌じゃなくなったな。
「いってきます。」
今日の空気は、わずかに冷たい。
夏が終わりきる前の、少しだけ秋を含んだ匂いがする。
駅までの道を歩きながら、スマホを確認する。
生徒会のグループチャットは、朝から通知が多い。
本日の予定↓
【備品の最終チェック】
【クラス展示、外ステージの電源確認】
【来賓動線、修正】
電車に乗り込み詳細を確認する。
私もみんなに続いて【了解しました】と、メッセージを送る。
ソシャゲのログインボーナスを受け取ると、もう最寄り駅まですぐだった。
いつもより少しだけ空いていた電車を降りて、大通りに足を進める。
「朝倉さん、おはよう」
正門前でイヤホンを外したところを、後ろから声をかけられる。
振り返ると、同じ生徒会の男子が小さく手を上げる。
「おはよう」
生徒会に入るまでは、
こんなふうに挨拶を交わすことだってまれなことだった。
生徒会室に入ると、すでに数人集まっていた。
机の上には資料とペン、当日使用するトランシーバーが並べられている。
挨拶も早々に会長から声がかかる、
「朝倉には体育準備室で備品のチェックをお願いしていいか。秋月が先に行ってるはず。」
「わかりました。」
「助かる。」
淡々とした業務連絡のなかにある、
その一言で肩が少し軽くなる。
秋月の名前に少しだけ心を躍らせながら、
体育館に向かって廊下を歩いていると、
早めに来たクラスメイト達に声を掛けられる。
「おはよ~」
「生徒会?」
「大変だねー」
生徒会に入っていなかったら、
彼女らともこんなふうに言葉を交わすことはなかっただろう。
——ああ、今は。 学校に居場所がある。
そう思った瞬間、
なぜか、ほんの一瞬だけ、
不安な気持ちになった。
秋晴れというには少し早い気もするが、雲ひとつない空が広がっている。
雨の気配なんて、どこにも感じなかった。




