第12話 紅葉
結構長いこと電車に揺られた。
こんなにかかるんだったら、近場で一人暮らしするのが正解だなと思った。
すっかり冷たくなった秋風。
小さな広場に、
数本生えている街路樹、
これから、赤、黄に色づく緑の葉が揺れている。
駅周辺は、栄えてもいないけど不便はなさそうに感じた。
そろそろ、日も落ち始める時間。
先輩は、学校まで迎えに来てくれると言ってくれたが断った。
ここまでの出迎えも同様の理由で断った。
心臓の拍動に合わせて足が進む。
駅からは数分で着いた。
新築ではないが小綺麗なアパート。
1階の角部屋、
やっと一呼吸おけた、
ゆっくりインターホンを押す。
……数秒経って足音が近づいてくる。
ガチャと扉が開いた。
目が合う――
久しぶりに見たからか、化粧をしているからか。
思い出の先輩よりも、綺麗に映った。
「おかえりなさい」
わずかに笑って言う先輩のその言葉で、自分もなにか言わなければと我に返る。
「た、ただいま、」
おかえりと言われたら、とっさにただいまが出てしまうもの。
でも、
初めて来た家なのに、
なんとなくただいまがぴったりな、
そんな感じがした。
想像より狭いけど、綺麗に整頓されている、1Kの部屋。
先輩からの、
「狭くてごめんね」の問いかけに、
「はい」って答えたら、
「ここは"そんなことない"って言うところでしょ」
って笑いながら髪の毛をぐちゃぐちゃにされた。
久しぶりに笑った気がした。
荷物を下ろしたら、
特に先輩はなにを聞くでもなく、
寒かっただろうからお風呂に入ってきなって。
外から来た私に、うろちょろされるのが嫌だっただけかもしれないけど、
一拍おいて落ち着きなさいって言われてるみたいでありがたかった。
私が上がるのと入れ替わりで先輩も入ったが、
髪も乾かさないで十数分で出てきた。
家のなかでの先輩は眼鏡をかけていた。
すでに、化粧も落としていたが、
美人であることに変わりはない。
先輩はチーズケーキをご馳走してくれた。
言われるまで手作りだとはわからなかったレベルだ。
お土産の一つでも持ってくればよかったと、
今更思った。
食べ終えた後も、短い会話はあれど伝えたい言葉が出てこない。
私が口を開くのを先輩は黙って隣で待っている。
1時間ほど経った頃だろうか、
先輩は思い出したかのようにドライヤーを取りに行く。
私の髪の毛乾かして、とドライヤーを差し出す。
先輩の髪の毛を乾かし終え、攻守は交代した。
すっかり乾いた髪の毛。
私が先輩の隣に戻ろうとすると、後ろから手を回される。
鼓動が跳ねる。
ぴったりとくっついた身体からは、
あのときに伝わってこなかった先輩の体温が流れてくる。
呼吸に合わせてわずかに揺れるお互いの身体が、
心地よさを加速させた。
日が沈み、
部屋が暗くなっていたことにも気が付かなかった。
月と街灯の明かりだけが、
レースのカーテン越しに、
二人をほのかに照らしている。
この人に伝えたいことがたくさんあった
……でも、言葉に出せない。
……陽の感情も、負の感情も、
名前のついていない、初めての感情も、
あなたがいない日常では、うまく息ができないことも、
…でも、
それらを伝えなくても。
仮に、ぶつけたとしても、
あなたは隣にいてくれる、
そう信じるしかなかった。
私はやっと口を開いた。
部屋の中は寒くないはずなのに、
唇が震える。
緊張はしていたけど、
学校で話すみたいに、
甘えて語りかけるみたいに言った。
「澪さん、あたためて。」




