鮎川園地キャンプ場
日本海に面する国道305号線は、越前海岸の観光道路になります。この日はとても天気が良く、白山の山頂以外は透き通るような快晴。右手の日本海は水平線がクッキリと見えました。現在の時刻は17時を過ぎたくらい。日没は18時半なので、まだまだ時間があります。
国道305号線を南下していくと、鉾島という岩山が海の中からせり出していました。これは柱状節理といって、地下のマグマや地上に流れ出た溶岩が冷えて固まる際に、柱のような規則的な構造を見せる岩になります。岩の柱の様子が、海中に次々と打ち込んだ鉾みたいなので鉾島という名前が付けられました。僕的には、飛び出した岩がキューブにも見えるので、リアルなマインクラフトの世界のようにも見えました。
日本海沿岸にはこのような柱状節理が多数確認されており、有名なところで豊岡市の玄武洞、越前海岸の東尋坊などがあります。一年前に丹後半島の先端にある経ヶ岬の周辺で野宿をしたことがありますが、ここの柱状節理は玄武洞や東尋坊とは比較にならないくらいに巨大で広範囲でした。そうした観光地と比べると、鉾島は規模的には大きくはないのですが、島としての形がスタイリッシュで良かった。日本海をバックにして島が映える、映える。そんな鉾島の隣に、鮎川園地キャンプ場がありました。
受付を済ませて、テントを張る場所を探しました。サイトは芝生が敷かれていてフカフカ。炊事場やトイレは完備。海水客の為にシャワー室がありました。ゴミは分別ですがなんでも捨てて良いそうです。自動車は駐車場に停めなければなりませんが、スーパーカブはテントの傍で停めても良いとのことでした。野宿ばかりしてきた僕からすれば、至れり尽くせりのキャンプ場になります。サイトの8割くらいは使用されていましたが、ギュウギュウ詰めではありません。テントを張る場所はあります。丁度真ん中あたりが、なぜか空白地になっていたので、そこにテントを張ることにしました。
テントはドーム型の自立型テント。ソロキャンですが、テントは二人用の大きなものを使用しています。昔は荷物を少なくするために、小さくパッキング出来る一人用テントを使っていました。しかし、たとえ一晩であっても居住性は案外と重要です。また、このテントは通気性が抜群に良いので、夏はこの二人用テントばかりを使用していました。設置が終わったので、炭を熾します。ひと仕事が終わったので、キンキンに冷えた缶ビールを一気に飲みました。
――プッハー!
メチャ美味い。喉の渇きが癒されます。何かアテが欲しくなりました。しかし、ホルモンを焼くためには、火力が安定するまで、しばらく時間が掛かります。日没まで、あと30分。ブラブラと散歩をすることにしました。
いろんな方がキャンプ場に来られていまました。3家族分くらいの大規模編成チームが、炊事場の隣を陣取っています。木々の間にロープを張って、子供たちの水着を干していました。テントやバーベキューセットもかなり豪華。キャンプというよりも、ここで生活している様な趣でした。東南アジア系の大家族もいます。大きなテントに電飾を施してピカピカと光っていました。リクライニング出来る大きなチェアーを設置して寝そべっています。気分はリゾート感覚。僕はキャンプ場を利用することが少なかったので、他の人のキャンプスタイルがとても新鮮に映りました。かなり面白い。ブラブラしながらそれとなく覗き見をします。
海岸と並行した歩道を歩いていると、一人用の小さなテントを見つけました。本当に小さい。大人が一人寝るくらいしかできない。荷物を入れる余裕も無さそうです。その横には自転車が停まっていました。納得です。僕の場合はスーパーカブなので、それなりに荷物を運ぶことが出来ます。でも、自転車の場合は出来るだけ荷物を少なくしなければなりません。究極のスタイルでした。このテントの主は、金髪の海外の方でした。ビール一缶で気分良くなっていた僕は、彼に気軽に話しかけます。
「自転車で来たんですね」
座り込んでいた彼は僕を見上げて、嬉しそうに立ち上がりました。
「はい、越前海岸を走ってきました」
流暢な日本語です。僕は英語が話せないので、安心しました。
「どこから走ってきたんですか?」
「大阪の吹田から」
「えっ! 僕は摂津です」
彼が目を丸くします。
「近くですね」
「凄いな~。自転車でここまで来たんですか?」
「はい。一日150km走ってきました。とても遠い」
「凄い体力ですね。普段はトレーニングをされたりするんですか?」
「私は、トレイルランをしています」
「へー、トレイルラン。山の中を走るやつですね。僕は白山を登ってきたんですが、山で走っている人を沢山見かけました。それで、少し気になっていたんですが、山道で走っていて転ばないんですか?」
彼は笑顔になりながら、自分の肩とか足を触ります。
「よく転びます。体のココとかココをぶつけて痛いです」
僕は彼のリアクションを見て笑いました。
「ハッハッハッ、それは痛そうですね。大会とかに出場するんですか?」
「はい。大会に出ています」
40代半ばくらいの彼は、とても引き締まった体つきをしていました。無邪気な笑顔がとてもチャーミング。僕には登山家の従兄がいたのですが、表情といい仕草といいどこか従兄を思い出させます。
「日本には長いのですか?」
「はい。20年住んでいます」
「お国は?」
「ニュージーランドです」
「へー、自然がいっぱいでしょう」
「はい。とても自然が多い。あなたも来てください」
「行ってみたいな~。……ところで、ニューランドには帰ったりするんですか?」
「妻と子供を連れて、正月に帰ります」
「あっ、結婚しているんだ。もしかして、奥さんは日本人?」
「はい。日本人です」
「奥さんとは、一緒にキャンプに行ったりするんですか?」
「初めのころは、一緒にキャンプをしました。最近は嫌がります」
「そうなんだ。自転車で一日150kmも走るんなら、そりゃ嫌がりますよね」
「そうです。フフフッ……」
彼が笑います。
「正月にニュージーランドに帰ったら、向こうは夏ですね」
「はい。日本とは反対です」
「面白いな~。地球の反対だもんな……」
その後も、彼との談話を楽しんでラインを交換しました。人が多いキャンプ場を避けてきた僕ですが、かなり面白い。この鮎川園地キャンプ場にやってきてとても良かった。彼と別れた後、水平線に沈む太陽を眺めながらビールを飲み、ホルモンを喰らいました。滅茶苦茶に美味い。缶ビールを次々と空にしました。この日の夜は、サイト内が騒がしいということもなく、僕も酔っぱらって早々に寝てしまいました。




