表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

市ノ瀬野営場

 石川県道33号線は、白峰村から白山登山口である別当出合までを結ぶ県道で、白山公園線と呼ばれています。県道の横には白山の雪解け水が集まった手取川が流れていて、スーパーカブを走らせると、青い山々の渓谷の間を清流が白い水しぶきをあげる雄大なパノラマを楽しむことが出来ました。大自然に隔離された県道の宿命で、雪が積もる冬の間は通行止め、嵐の為に一時的に封鎖になるなど、走れないことがあります。今回も強雨の影響で道が遮断された個所があり、仮設信号による交通制限で何とか走れるようになっていました。


 太陽が西に傾き、山の影が県道を覆い始めました。あれほど暑かったのに、陰に入ると気温が急に下がります。とても涼しい。緩やかなワイディングロードを走っていくと、目的地である市ノ瀬野営場に到着しました。この野営場は、市ノ瀬ビジターセンターが管理しています。ビジターセンターの主な役割は、登山客に対するサービスでした。日本で登山をする場合、登山届が必要になります。僕はこれまでに奈良県の大台ヶ原や大峯山系、それに長野県の北アルプスに登ってきましたが、いつも登山届を提出していました。登山は大自然を感じれるレジャーですが、同時に滑落事故等が発生しやすいレジャーでもあります。登山届は、万が一事故が起きた場合に登山者の履歴を知るために必要な手続きでした。そうした登山に関するサービスをビジターセンターが行っています。


 ここ市ノ瀬野営場は公設のキャンプ場なので、使用料がとても安かった。800円になります。その代わり場内に車を乗り入れることは出来ません。スーパーカブなら許してもらえるかな……と期待しましたが、駄目でした。でも、場内の近くまで砂利の車道が伸びていて、テントの近くに車を停めることが出来ます。僕もテントの傍に相棒を停めることが出来たので、それほど不便ではありませんでした。


 テントサイトは緑に囲まれており、地面は芝生でフカフカ。傍には手取川の清流がサラサラと流れていて、ロケーションは最高。テントの設置場所は自由に選んでも良いのですが、一応は区画が決められています。それぞれの区画には、木製の4人掛けテーブルとプライベートで使えるBBQ用の炉が設置されており、設備はかなり充実。公営ということもあり商売っ気が全くなくて、サイトにはそうしたキャンプ場としての充実度が紹介されていませんでした。その甲斐もあってか、お盆というのにこの日の利用者は僕を含めて4組だけ。穴場中の穴場。とても快適でした。とはいっても僕の基本スタイルは野宿なので、本当に使いたい設備はトイレと給水くらいなもので、七輪があるのでBBQ炉は使いません。僕には十分すぎるキャンプ場でした。


 そうしたキャンプ場としての充実度とは別に、野宿では味わえない快適さがありました。それはお金を払っていることに起因します。僕の野宿は、山奥の通行止めの道の上で野宿をしたり、雪山の中でテントを設置したり、ダムの奥にスペースを見つけて野宿をしたり、出雲大社に行ったときはトンネルが出来たことで使われなくなった旧街道にテントを張っていました。まるでホームレスか不審者かという行動なので、とても肩身が狭い。それと比較すると、お金を払うことで安心感が買えるのです。これは大きかった。


 じゃ、これからはキャンプ場を利用するのかというと、それは違います。僕は、キャンプなり野宿を楽しんではいますが、それが目的ではありません。目的の場所の周辺にキャンプ場がないから、もしくはキャンプ場の料金が高いから利用しないのです。今回のように計画の途上に使いやすいキャンプ場があった場合は、喜んで使うと思います。そんなこんなで、無事にテントを張ることが出来て、炭熾しも済ませて、先ずはビールを飲みました。


 ――プッハー!!


 暑い夏に飲むビールって、なぜこんなにも美味いのでしょうか。テーブルの椅子に腰かけて、一息つきます。今晩の献立は、焼き鳥。自宅で塩コショウとニンニクで下拵えした鶏モモ肉を網の上に載せました。一緒に、白ネギやエリンギ、ニンニクも載せます。芳ばしい匂いが立ち上ってきました。もうそろそろ食べごろです。


 ――旨い。ビールがすすむすすむ。


 他にも、海老やイワシの粕漬けも用意していました。同じように炭火焼で食べるのですが、これらは福井の地酒である黒龍と合わせます。日本酒を美味しく飲むために、専用の器も持ってきていました。以前に、大失敗したのですが、シェラカップで日本酒を飲むと非常に不味い。金属の味が混じります。日本酒を美味しく飲むのなら、焼き物かガラスのグラスが絶対に必要です。さてさて、魚介類も仕上がってきました。口に運びます。


 ――旨い。そんでもって、黒龍も美味い。


 ハイペースで飲んだこともあり、かなり酔いました。時刻は18時45分。まだ日が沈み切っていません。いつもなら、焚火を見つめながらウィスキーも飲むのですが、もうそろそろテントに潜り込み寝る準備に掛かります。明日は0時までに起きて、登山を開始する予定でした。何故なら、白山山頂で日の出を拝みたいからです。今から寝たとしても4時間少々しか寝ることが出来ません。さあ、寝るぞ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ