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越前海岸

 出発前に、職場である中央卸売市場に立ち寄りました。事務所前に、僕の相棒を停めます。かなりの重装備。スーパーカブのリアキャリアには、テントや寝袋といったキャンプ用品から、食料や飲料水といった重量物。それに今回は長旅になるので、ガソリンが入った携行缶も用意していました。タイムカードを押して、最低限の仕事の段取りをします。本来の予定では、朝の6時に市場から出発するつもりでしたが、4時過ぎには段取りが終わりました。早くに出発できるのなら、それに越したことはない。


 白山に登るためには、大きく二つの登山口がありました。一つは、西の石川県にある別当出合登山口。もう一つは、東の岐阜県にある平瀬道登山口。今回、僕が利用するのは石川県側の別当出合登山口なのですが、白山公園線が通行止めなら利用することが出来ません。その場合、白山の南に位置する九頭竜湖を経由して、岐阜県側の平瀬道登山口に移動しなければならない……と考えていました。その移動の為に2時間以上は必要なのです。出発の時点では、白山公園線が走れるのかどうかは分かっていません。これ幸いにと慌てて出発しました。


 今回は北上するルートに鯖街道を利用しました。鯖街道とは、若狭と京都を繋ぐ山間ルートになります。昔は、若狭で捕れた新鮮な鯖を塩漬けにして京の都に運んでいました、しかも徒歩で。塩サバは焼いても美味しいのですが、この塩サバを酢で〆た「さばずし」がとても美味しい。僕が子供の頃は、母親がこのさばずしを良く作ってくれました。とても美味しかった記憶があります。


 京都の左京区から国道367号線を利用して山間部に入りました。ここが鯖街道の入り口になります。この頃には、朝の6時を回っていて十分に明るかった。ただ、上空には雲が立ち込めていて、昨晩までの嵐の様子が伺えます。お盆ではありましたが、朝が早いということもあり盆渋滞の恐れはありません。フルスロットルで北上しました。朽木を越えた辺りから東に折れて、継体天皇が生まれた高島市に向かいます。遠目に琵琶湖を確認しつつ、また北上。マキノ高原にあるメタセコイア並木を経由して、敦賀市に至りました。


 敦賀市では、氣比神宮と敦賀市立博物館に立ち寄ります。氣比神宮は、古事記や日本書紀にも記される古社で、主祭神である伊奢沙別命いざさわけのみことが応神天皇と名を交換する説話が残されていました。応神天皇五世孫といえば継体天皇になるわけで、この敦賀の地に応神天皇の痕跡があったのです。これはとても面白い。時刻は朝の9時になり、近所の敦賀市立博物館に立ち寄りました。ただ、僕が求める歴史的な情報はありません。それよりも9時を回ったということもあり、石川土木総合事務所に電話をしました。


「もしもし、ネットで見たのですが……」


 最悪の事態を想定しつつ問い合わせましたが、白山公園線は無事に開通していました。急に心が晴れ渡ります。スーパーカブにキーを差し込みながら、思わず叫んでしましました。


「よっしゃ~! 待ってろよ白山」


 敦賀市から福井市に向かう場合、内陸の鯖江市を通過すれば最短で行けますが、今回は越前海岸を走ることにしました。今回の旅の目的は白山登山ですが、相棒と走る以上、ツーリングも楽しみたい。昨年の旅では、出雲大社から敦賀までずっと海岸線を走ってきました。丹後半島の雄大さや、若狭湾のひなびた漁村の感じがとても素敵。その続きが、今回の越前海岸になります。とても楽しみにしていました。


 水平線には青い空が広がっています。良すぎるくらいに天気は上々でした。ただ兎に角、暑い。殺人的な直射日光に負けじとアクセルを回しました。ヘルメットのシールドを上げます。顔面を叩きつける風が気持ち良かった。左手に青い海。右手に切り立った崖。中央には道路が右に左にと蛇行しながら伸びています。僕のスーパーカブだけが走っていました。


 ――気持ちが良い~。


 しばらく走ると、越前ガニの看板が次々と現れます。観光地化した集落に入り込みました。廃墟と化した幽霊屋敷のような旅館もありましたが、それはごく一部。海岸は観光客が溢れ、観光地の中心地は大いに賑わっていました。


 スーパーカブを更に走らせます。明日の宿泊地は、越前海岸にある鮎川園地キャンプ場を予定していました。普段の僕の旅は野宿ばっかりなのですが、理由はキャンプが目的ではないからです。目的地の周辺にキャンプ場がない場合は、あっさりと野宿を選択していました。それに、キャンプ場って価格が高くないですか? テント持ち込みでもビジネスホテル並みに料金を請求されたりします。ところが、この公営キャンプ場は価格が安い。なんと800円。それなら利用しても良いかな……みたいな気持ちになっていました。ところが、キャンプ場を通り過ぎるときに見てしまったのです。


 ――人と車で、いっぱい!


 スーパーカブを走らせながら、考えてしまいました。あの人混みの中でテントを張る意味があるのだろうか……。価格が安いということは、利用客が多いということでもありました。かなりの抵抗感が心のなかに生じます。グズグズと考え込みながらも、明日のことは明日考えようと悩むのをやめました。


 福井を横に横断すると、禅宗で有名な永平寺町を抜けて、勝山市に至ります。永平寺町では福井の銘酒である黒竜をゲットしました。勝山市では福井県立恐竜博物館に立ち寄るつもりでした。歴史と言っても恐竜は専門外なのですが、新しい知見が開かれるかもしれないと少しは期待していたのです。ところが、お盆の観光客が恐竜博物館に殺到していて、車が1km以上も渋滞していました。


 ――おいおい。


 即、却下です。長蛇の列に並んでまで見学するつもりはありません。進路を白山に向けました。ただ、この時点で昼の14時ぐらい。流石に白山に向かうには早すぎます。そこで、明日に見学するつもりだった石川県立白山ろく民俗資料館に行くことにしました。福井県ではなく石川県にあります。この博物館は、白山公園道路の始まりにありました。この博物館が、実は、とても良かった。

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