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書術道  作者:
―青龍編―
57/60

51.御簾の向こうの巫女

【時系列】

朱夜三六八年 一月二十五日:青龍の里へ到着

(予定)朱夜三六八年 四月:朱雀の里へ帰還(火夜、銀夜、橘)

(予定)朱夜三六九年 一月:朱雀の里へ帰還(真白)





「ようこそお越しくださいました、朱雀の皆様方。

 お疲れのところ、ご足労をおかけいたしました。

 わたくしは(せい) 龍麗りゅうれい

 ここ、青龍の里にて、巫女および師範を務めております。」


御簾の向こうから聞こえた声は、か細いながらも凛としていた。

透き通るようでいて、確かな芯を持つ声。

強くはない。だが、折れる気配もない。


姿を見せられぬほど、龍化が進んでいるのだ。

今はもう、彼女の輪郭しか見ることはできない。

それでもなお、師範として。

巫女として。

龍麗はこの場に立ち、務めを果たそうとしていた。

その覚悟を守るために、この御簾は垂らされている。

そう思わせるほど、彼女の存在感は声だけで十分だった。

御簾越しに、火夜はただ見つめていた。

今にも消えてしまいそうな、命の灯を。


龍麗の一段下。

御簾の前に控えていた男が、静かに口を開く。


「わたくしは、師範の水守(みずもり) 流牙りゅうがと申します。

 この度は、我が青龍と友好を結びたいとのお申し出、誠に感謝いたします。

 真白殿を一年間お預かりし、御身の安全と学びの機会をお約束いたします。」


挨拶を終えた流牙は、そのまま今後の予定を簡潔に述べた。


青龍の里の男性師範――水守(みずもり) 流牙りゅうが

白に近い水色の、月白の髪が光を受け、水面のようにきらきらと輝いている。

顎ほどの長さの髪のうち、右耳のあたりだけが細く束ねられ、胸元まで伸びていた。

年の頃は蒼真や陽斗と同じ、二十歳前半ほどに見える。

細められた眼は瞳を隠し、常に微笑んでいるような印象を与えた。


説明の主な内容は、真白の修行についてだった。

真白はこれから一年、この青龍の里で書術を学ぶことになる。

最初の一月から二月半ほどは、火夜、銀夜、橘も滞在するが、卯月(四月)には朱雀の里へ戻らねばならない。

つまり――迷う時間はない。

本来の目的である、青龍の里の掟を遂行するために許された時間は、決して長くはない。

だが表向きは、里同士の交流の一環。

青龍の者が多く集まるこの場では、その本当の目的に触れられることはなかった。


「皆さま、お疲れのところ恐縮ですが、略式ながら歓迎の儀とさせていただきます。」


その言葉をもって、歓迎の儀は簡潔に締めくくられる。

やがて、流牙の声により退室が促された。

姿を見せることもできず、そしておそらく、座していることすら龍麗には辛いのだろう。

こちらの身を案じての配慮であり、形式を重んじる青龍の里における、あえての略式化だった。

里の者たちは、その不自然さに疑問を抱く様子もない。

しかし、部外者である朱雀の者たちは、驚きを隠せずにいた。


「火夜様、蒼より言伝(ことづて)を預かっております。

 『話があるので、この場に残るように』とのことでございます。」


下女がそう告げると、銀夜は退室の歩みを止め、火夜へと視線を向けた。

それに気づいた火夜は、要らぬとばかりに手を下へ向けて振り、外へ出るよう示す。

寂しそうに、そして心配そうにするも、銀夜は一度だけ振り返り、大人しくその場を後にした。

龍麗と火夜の間に、護衛はいらない。

それは以前、龍麗と流香が朱雀を訪れた際に、すでに十分理解されていることだった。


――そう、あの日はまだ神無月に入ったばかりで秋晴れのする、暖かな日だった。




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