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書術道  作者:
ー朱雀編ー
55/60

49.白き轟き




出発して十日目。

幸いにも一同は、二日目以降一度も魔獣、そしてあの白装束の女に遭遇することなく、八日間を過ごしていた。

だが、その間、一度として空気が緩むことはなかった。

常に張りつめた緊張が漂い、神経を研ぎ澄ませたままの旅路は、確実に彼らの体力と精神を削っていた。

精神的な安堵も、充分な睡眠も得られぬまま八日を耐え抜けたのは、さすが準師範と呼ばれる者たちだからこそだろう。

それでも限界は近い。

張り続けた結界の縁は、わずかに揺らぎ、術者の指先には自覚のない震えが残る。

神々の領域も、旅も、何もかもが初めての真白も、当初の緊張はすでに影を潜めていた。

今では、疲労困憊の青白い顔で横たわり、浅い呼吸を繰り返している。

無理もない。

周囲に気を配る余裕など、とうに失われていた。

銀夜と橘が交代で結界を張り巡らせ、流香と波流が交代で水竜を操る。

役割を分担してなお、その負担は重く、疲労は確実に積み重なっていく。

当初の予定では、結界は張らず、魔獣に遭遇した際は戦闘によって排除する――

それが最も効率的だという結論に至っていた。


しかし、二日目以降は違った。

恐怖が、その判断を覆したのだ。

結界を張ること自体は、決して難しい術ではない。

だが、恐怖を抱えたまま術を発動し続けるのは、準師範といえど容易ではない。

精神統一――それは、書術において欠かすことのできない要素だった。

精神的疲労が極限に達する中で、ただ一人、平常心を保っている者がいる。


火夜だ。


白装束の女と対峙して以降、彼女はまるで何事もなかったかのように元の火夜へと戻り、淡々としている。

乱れぬ呼吸、揺るがぬ視線。

その姿は、さすが師範と呼ばれる存在だとしか言いようがなかった。


「見えました。」


先頭――竜の頭部で舵を取る流香が声を上げた。

それに応じるように、真白も重たい体を引きずるようにして身を起こす。

少し前から耳に届いていた、低く、途切れることのない轟音。

進むにつれ大きくなっていたその音の正体が、ついに視界に現れる。


大量の水が、はるか高みから落下し、

砕けた水しぶきが白く舞い上がっていた。

火夜を除く朱雀の者にとって、それは初めて目にする光景だった。


――滝。


川岸へと竜を寄せ、一同は静かにその背から降り立った。




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