49.白き轟き
出発して十日目。
幸いにも一同は、二日目以降一度も魔獣、そしてあの白装束の女に遭遇することなく、八日間を過ごしていた。
だが、その間、一度として空気が緩むことはなかった。
常に張りつめた緊張が漂い、神経を研ぎ澄ませたままの旅路は、確実に彼らの体力と精神を削っていた。
精神的な安堵も、充分な睡眠も得られぬまま八日を耐え抜けたのは、さすが準師範と呼ばれる者たちだからこそだろう。
それでも限界は近い。
張り続けた結界の縁は、わずかに揺らぎ、術者の指先には自覚のない震えが残る。
神々の領域も、旅も、何もかもが初めての真白も、当初の緊張はすでに影を潜めていた。
今では、疲労困憊の青白い顔で横たわり、浅い呼吸を繰り返している。
無理もない。
周囲に気を配る余裕など、とうに失われていた。
銀夜と橘が交代で結界を張り巡らせ、流香と波流が交代で水竜を操る。
役割を分担してなお、その負担は重く、疲労は確実に積み重なっていく。
当初の予定では、結界は張らず、魔獣に遭遇した際は戦闘によって排除する――
それが最も効率的だという結論に至っていた。
しかし、二日目以降は違った。
恐怖が、その判断を覆したのだ。
結界を張ること自体は、決して難しい術ではない。
だが、恐怖を抱えたまま術を発動し続けるのは、準師範といえど容易ではない。
精神統一――それは、書術において欠かすことのできない要素だった。
精神的疲労が極限に達する中で、ただ一人、平常心を保っている者がいる。
火夜だ。
白装束の女と対峙して以降、彼女はまるで何事もなかったかのように元の火夜へと戻り、淡々としている。
乱れぬ呼吸、揺るがぬ視線。
その姿は、さすが師範と呼ばれる存在だとしか言いようがなかった。
「見えました。」
先頭――竜の頭部で舵を取る流香が声を上げた。
それに応じるように、真白も重たい体を引きずるようにして身を起こす。
少し前から耳に届いていた、低く、途切れることのない轟音。
進むにつれ大きくなっていたその音の正体が、ついに視界に現れる。
大量の水が、はるか高みから落下し、
砕けた水しぶきが白く舞い上がっていた。
火夜を除く朱雀の者にとって、それは初めて目にする光景だった。
――滝。
川岸へと竜を寄せ、一同は静かにその背から降り立った。




