05.手段(みち)
震えの収まった手を見た火夜の閉じた口の端が上がる。
熱い!
少年の右の手に改めて火夜の手が添えられ、左の肩をつかまれる。
炎に一番近い指先が一番熱く、次に左肩が焼けると錯覚するほど熱い。
その熱が、筆を握る手に添えられた手の持ち主からだということを理解するのに思慮の時間は不要だとする理由が目の前にもう一つあった。
筆の先から炎がでているのが視える。
真剣に筆先をみつめる火夜の横顔を見ると、彼女の身体や髪の毛すべてが炎を纏っているのが確認できる。
熱が身体中を走っているはじめての感覚は嫌ではない。
むしろ、自身も髪の毛の先まで熱を帯びているのが心地よい。
焼けるような熱さなのに痛さを感じない。
しかもその源が火夜であることに納得と喜びも感じられる。
書術はあくまで手段だからね
稽古中の茶々の言葉が頭に響く。
「書術は手段・・・ですか?」
「そう手段。オイラの考え方だけどね。」
書術を手段という意味が解らず聞き返した少年に茶々はつづける。
「書術を学ぶことや極めることを目的にするのではなく
大事なのはその先ー・・・」
「書術で何をしたいのか」
その言葉が広大な天の川が広がる星空を翔る筆の軌跡とともに心に響く。
無数の星々がしぶきを上げるように弾け、筆はその間を縫うように翔けていく。宙に描かれる言葉の光は、茶々の声のようにやさしかった。
星空をのびのびと翔る筆。
踊っているようにも視えるその想像の中で茶々の問いに今応える。
「したいこと? そんなの・・・
茶々さんを救いたい!」