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書術道  作者:
ー朱雀編ー
44/53

38.決意新たに




年末、里を大騒ぎさせた雪も大晦日にはすっかり溶け、年明け三日も経てば跡形もなくなっていた。

そのため、例年通りの新年の儀が執り行われることとなった。


普段、学院生全員が一堂に会することはない。

建物も行事も、有段者と有級者は基本的に分けられている。

だが、この日ばかりは違った。

学院生は全員、本殿前に集い、四神・朱雀へ新年の挨拶を行う。

本殿の扉が開かれるのは、一年でこの日だけ。

神楽殿では雅楽が奏でられ、舞楽奉奏が始まった。

寒空の下、式が進み、長々とした祝詞が奏上される。

正月気分の抜けきらぬ学院生の誰かが、こらえきれず欠伸をしたその瞬間――。

澄んだ鈴の音が響き渡った。


音が重なるごとに、場の空気は澄みわたり、張りつめていく。

やがて鈴の音とともに、火様が姿を現した。

巫女装束をまとい、鈴を手に神楽殿へ歩み出た彼女は、神々しくも美しい。

普段は肩で切りそろえられた黒髪も、この日は腰まで伸び、後ろでひとつに束ねられている。

雰囲気はいつもとまるで違うのに、それでも一目で火夜とわかる存在感があった。

所作のすべてが「美しい」という言葉に尽きる。

学院生の視線を一身に受けながらも、火夜は気負うことなく、のびやかに舞った。


――この舞は、本来、複数人で舞うものではないか。


ふと真白は気づく。

舞っているのは火夜ひとり。

だが、その振りや立ち位置、視線の先には確かに「誰か」がいるように思えてならなかった。

それを、火夜はたったひとりで舞いきっている。

そのことに、真白は強い違和感を覚えた。

しかし、舞の美しさがその違和感すら覆い隠し、ただ胸の奥に小さな棘のような疑問だけを残した。

舞が終わると、火夜は本殿の朱雀へ拝礼する。

それに倣い、一同が頭を下げ、そして面を上げたその時――。

ひとひらの赤い羽根が、真白の目の前にふわりと舞い降りた。


(……羽根? どこから……)


手に取ろうとした瞬間、それは炎に包まれ、跡形もなく消えた。

驚いて周囲を見渡した真白は、退出のため立ち上がった火夜と目を合わせてしまう。

慌てて下を向くが、火夜はしばらく静かに、しかし確かに真白を見つめ続けていた。




※※※※※


【四神伝説】

昔々、この世界に麒麟が降り立たれた。

その恵みによって火が生まれ、水が湧き、風が吹き、大地は豊かになった。

やがて麒麟は、四方を治めるため、南に朱雀、東に青龍、西に白虎、北に玄武を置いた。


※※※※※


こうして四神が方角を治め、やがてそれぞれの里が興り、今も四神を祭っているのだ。


新年はまず本殿前で朱雀への挨拶と舞楽奉奏が行われ、その後は大広間へ移り、火様への挨拶が行われる。

朱雀への挨拶は学院生全員で行う大規模なものだが、火様への挨拶は屋内ゆえに代表者に限られる。

九段および師範、準師範はもちろん出席するが――そこに真白の姿もあった。

壇上に現れた火夜は、先ほどの巫女装束ではなく、いつもの師範の装いであった。


「あけましておめでとうございます。」


一同が声を揃えて挨拶をし、火夜からも言葉を賜る。

形式的な挨拶が終わると、彼女の声色がわずかに変わった。


「本年四月より、初の試みとして青龍の里へ一名を修行に出すこととなった。

 今後、青龍の里との友好を築く一歩として、彼には大いに期待する――真白。」


名を呼ばれ、真白は壇上前へと進む。

九段たちの前を通り抜けると、訝しげな視線とささやき声が耳に届いた。


(あんな奴、学院にいたか……?)

(なぜ、あのような者が……)


心臓が跳ね上がり、緊張で手が冷たくなる。

だが、それ以上に胸の奥で、熱く、そして揺るがぬ決意が燃え上がっていた。


「修行期間は卯月より一年。弥生には私と準師範二名、彼の計四名で青龍の里へ向かう。

 二月半ほど留守にする予定で、その間は師範に一任する。」


火夜の不在が告げられると、大広間は大きくざわめいた。

そのざわめきの中、真白は胸の奥で、強い誓いを抱く。


――必ず、今よりもっと強くなる。

――火夜の期待を裏切らぬように。

――そして姉上の行方を、この手で必ず突き止める!


新年の幕開けとともに、真白の決意は新たに燃え上がった。




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