【番外編02】おやつ係⑤
二回目の烈火の番。
一度は仕事を放棄したため、今回は蒼真から見張りをつけられ、仕方なく買いに出かける。
普段から無口で表情も硬い彼は、何をしても迫力が出てしまう。
紫織から「せめて笑顔を心がけなさい。」と釘を刺されてはいたが――。
(……笑えって言われても、どうすんだ。)
結局、無表情のまま天翔庵へ向かうこととなった。
※※※※※
暖簾をくぐった途端、若い女の店員が振り返り――絶叫した。
「きゃあっ!ど、泥棒!」
「……は?」
烈火は首を傾げる。
だが自分の無愛想な顔と、全身に巻かれた包帯が怪しく見えるのだろう。
「ち、違う! 俺は……。」と言いかけた、その時。
奥の勝手口から本物の泥棒が飛び出してきた。
「オイ!金を出せ!!」
「……止まれ。」
低く短い声。
烈火が一歩踏み出すと、泥棒は逆に慌てふためく。
「ひっ、な、なんでこんなとこに化け物が!」
「誰が化け物だ……。」
烈火は逃げようとした男の腕をひょいと掴み、片手で床に叩き伏せた。
『縛』
炎を帯びた縄が現れ、泥棒を縛り上げる。小さく呻いた後、男は気を失った。
娘は呆然とし、次いで深々と頭を下げる。
「た、助かりました……! 実は昨晩、灯を消して休んだら泥棒に入られまして。今日も休みにすると店前に掲げていたのですが……。」
「……そうか。」
烈火は短く答えると、ほんのわずかに視線を逸らした。
油の高騰で早く床に着いたのが、かえって仇になってしまったのだ。
誤解は解けたが、心の中では――やっぱり笑顔を作っておけばよかったかもしれない、と少しだけ後悔する。
「本日はこちらしかご用意できないのですが……雪餅です。」
店主は特別に、五つ入りの包みを持たせてくれた。
「実はこれ、私が作ったんです。ようやくこれだけは父に認めていただけて。
みんなは雪を嫌がっていますが、私はわくわくしているんです。」
その菓子は、今にも溶けてしまいそうな雪を思わせる、繊細な姿をしていた。
烈火は一礼して受け取り、「……悪い。」とだけ残して店を後にした。
※※※※※
「本日のおやつ係、烈火です。」
「入れ。」
襖を開け、火夜の前に盆を置く。
いつもは三十個ほどたいらげるそうだが、今回は五つの雪餅しか用意できなかった。
無駄に力が入り、思わず「ガタン。」と音を立ててしまう。
「……天翔庵の、雪餅だ。」
「雪餅?めずらしいな。食べたのはもうずいぶん前だ。」
火夜が手を伸ばし、ひと口。
少しだけ考えて、一言。
「……作ったのは娘か?」
問われて、烈火はこくりと頷く。
泥棒捕縛の一件を簡潔に報告すると、火夜は湯呑を口に運び、淡々と頷いた。
「……ご苦労。下がれ。残りは準師範で食べてよし。」
食べてよい――とはつまり、必ず食べろということだ。
ひとつしか口にしなかった火夜に違和感を覚えつつも、仕方なく言葉通りに残りの四つを持ち、烈火は素直に下がった。
準師範全員を集めるため、伝令鶴を折る。
折りながら気づいた。
――火夜は、準師範全員が集まる機会を与えてくれたのだ。
こうして一月が過ぎ、全員が「おやつ係」という罰を終え、正月を迎える。
もっとも、正月を迎える前に太ってしまったため、馳走もそこそこに鍛え直す羽目になってしまった。