表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書術道  作者:
ー朱雀編ー
36/53

31.おやつ係①




「外部鍛錬場を一つ壊した罰として――火様おやつ係を命ずる。」


陽斗の言葉に、男性準師範は目を丸くし、女性準師範は青ざめた。

だが反論などできようはずもない。


「……ぎょ、御意。」




※※※※※




真白は無事に空文字を習得し、一段を授与された。

その折、外部鍛錬場を一つ使えなくしてしまった罰として――準師範全員が交代で“火様おやつ係”を務めることになった。


師走に入り、寒さはいよいよ厳しさを増していた。

恒例の朝餉前の鍛錬の場にて、蒼真が昨日の陽斗の言葉を改めて伝える。


「期間は師走いっぱい一月。一人五回ずつ交代で担当。

 任務は里の菓子舗で茶菓子を買い求め、申の刻(15〜17時)に火様へお出しすること。」

「申し訳ありません、僕のせいで……」


真白がしゅんと項垂れると、蒼真は柔らかく微笑んで首を振った。


「真白の責任ではありません。それに火様が本気で怒っておられるなら、こんな“罰”にはなさいませんよ。必ず別の意図があるはずです。」


その横で、女性準師範たちは青ざめてため息をついていた。

甘味を整える余裕すらない年末の忙しさ。

蒼真と橘もそれを思って胸を痛める。

だが、理由がそれではなかったことを後々痛感することとなる。


結局、話し合いの末――

銀夜、紫織、茶々、蒼真、烈火、橘の順で役を回すことに決定。

だが暗雲は、四番目の蒼真から立ち込めた。




※※※※※




申の刻ちょうど。

蒼真はいちご大福十個を盆に載せ、火夜のもとを訪れた。

名のある菓子舗の品。部下に買いに行かせたものだが、味は折り紙付きだ。


「――これだけか?」


低い声音に、蒼真はきょとんとする。

「これだけ、とは?」


「そのままの意味だ。次は受け取らん。下がれ。」


ぴしゃり。

扉が閉まる音だけが残り、蒼真は盆を抱えたまま立ち尽くした。


――自分は、おやつ係すら満足に務められなかった。


仕方なく、その日の報告を烈火に託すが、烈火はメモを一瞥もせずに役目を放棄。

おかげでその日の火様の機嫌はすこぶる悪かった。

申の刻を過ぎ、酉の刻になっても茶菓子は届かず。

火夜は癇癪を起こし、早々に自室へ籠ってしまう。

書術学院の仕事も滞り……余波は里全体へ広がった。




※※※※※




「ちょっとよろしいかしら?」


六番目、橘の当番の日の朝。

恒例の外部鍛錬場にて、紫織が強い調子で男性師範たちへ詰め寄った。

女性師範たちの目の下には深いクマ。

昨日の仕事の滞りのせいだ。

茶々はすばやく真白に課題を告げ、今日は自習とさせる。


「な、なにか……?」

恐る恐る蒼真が応じると、紫織は冷ややかに言い放った。


「おやつ係すら満足にできないとは、一体どういうことですの?」

「い、いえ!茶菓子は確かに持参しました!」


蒼真は慌てて説明する。

火夜の大好物いちご大福を十個、部下に買いに行かせて届けたが、「次は受け取らん」と突き返されたこと。


「一日ぐらい甘いもん食わなくても死にゃしねぇだろ。」

烈火は自分が完全にサボったことを、悪びれもせず言い切った。


「……最悪ですわ。」

紫織は顔を青炎より青ざめさせ、女性師範たちも同じくうなだれる。


「今回の罰は、火様なりの優しさ……なんですよね?」

橘が恐る恐る口にしたが、誰も答えなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ