24.霜月の朝
『炎』
『斬』
『撃』
準師範五名がそれぞれ空文字を操り、書術を発動させる手本を示していた。
霜月も末、朝餉前。
今日は茶々と真白の鍛錬に、六名が揃っていた。
真白の空文字習得を火様に命じられた準師範たちは、それ以来順に様子を見に来ていたのだ――烈火を除いて。
「火様の命以外で準師範が集まるなんて、めっずらしいよなー。」
橘は欠伸を噛み殺しながら呟く。
竹林に囲まれた外部鍛錬場は、準師範以上しか使用できない場所。
小鳥の声が遠く響き、朝の光が落ち葉を淡く照らしていた。
時は卯の刻を過ぎ、夜の名残を帯びた紺青の空に、東から淡い桃色が差し込み始める。
冷えた空気に吐く息は白く、露に濡れた落ち葉が仄かに光る。
こんな時間だから眠気に襲われるのも無理はなく、こんな時間でなければ多忙な準師範が集うこともなかった。
そして――烈火がまだ寝ているのも、仕方がないと橘は自分に言い聞かせた。
「確かに類を見ませんね。」
蒼真が微笑んだ視線の先に、紫織が立っている。
「ええ、本当に有意義な時間ですわ。
ですが、朝早くは控えていただきたいものですね。」
紫織も笑みを返す。
確かに、有意義ではあった。
ほかの準師範の実技を目の当たりにできるのは滅多にない。
段位が上がるほど横のつながりは薄れ、準師範となれば個人行動が増え、下段者の指導が主となる。
準師範に選ばれた者とそうでない者――その間に壁ができるのは当然であり、
さらに選ばれた者は、己を磨き続ける資質を問われるのだ。
会話を聞きながら、烈火は胸の奥がざらつくような違和感を覚えていた。
真白のために集まったはずなのに、誰も真白について口にしない。
むしろ休憩中は準師範同士のおしゃべり|に花を咲かせている。
「気持ちわりぃ……」
思わずつぶやいた烈火に、橘が驚く。
(狸寝入りか……)
文句を言おうとしたその時、銀夜が近づき「お前の番だ」と告げた。
呟きで狸寝入りが露見した烈火は、盛大に舌打ちをしながら立ち上がる。
「あの振る舞い、どうにかならんのか。」
汗を手拭いで拭きながら銀夜は蒼真を睨む。
苦笑を交え、声を落として蒼真は答えた。
「烈火にとって、準師範とは鎖のようなものです。
でなければ、自分の思うままに振る舞ってしまうでしょうから。」
「ならばしっかり鎖を手にしておかねばならんだろう。」
銀夜の追及に、蒼真は再び苦笑し、静かに否定した。
「それは、私の役目ではありませんよ。」
ドン! ドン!
衝撃音が鍛錬場に響き渡り、茶々の悲痛な叫びが重なる。
「烈火様! おやめください!!」
一瞬、全員の心臓が跳ね、動きが止まった。
真白、茶々、烈火――三名が今、鍛錬場で由々しき事態に直面している。
朝の静寂を切り裂く音は、緊張と焦りをより鮮明に映し出していた。