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書術道  作者:
ー朱雀編ー
29/53

24.霜月の朝




(ほのお)

(ザン)

(ゲキ)


準師範五名がそれぞれ空文字を操り、書術を発動させる手本を示していた。

霜月も末、朝餉前。

今日は茶々と真白の鍛錬に、六名が揃っていた。

真白の空文字習得を火様に命じられた準師範たちは、それ以来順に様子を見に来ていたのだ――烈火を除いて。


「火様の命以外で準師範が集まるなんて、めっずらしいよなー。」


橘は欠伸を噛み殺しながら呟く。

竹林に囲まれた外部鍛錬場は、準師範以上しか使用できない場所。

小鳥の声が遠く響き、朝の光が落ち葉を淡く照らしていた。


時は卯の刻を過ぎ、夜の名残を帯びた紺青の空に、東から淡い桃色が差し込み始める。

冷えた空気に吐く息は白く、露に濡れた落ち葉が仄かに光る。

こんな時間だから眠気に襲われるのも無理はなく、こんな時間でなければ多忙な準師範が集うこともなかった。

そして――烈火がまだ寝ているのも、仕方がないと橘は自分に言い聞かせた。


「確かに類を見ませんね。」


蒼真が微笑んだ視線の先に、紫織が立っている。


「ええ、本当に有意義な時間ですわ。

 ですが、朝早くは控えていただきたいものですね。」


紫織も笑みを返す。

確かに、有意義ではあった。

ほかの準師範の実技を目の当たりにできるのは滅多にない。

段位が上がるほど横のつながりは薄れ、準師範となれば個人行動が増え、下段者の指導が主となる。

準師範に選ばれた者とそうでない者――その間に壁ができるのは当然であり、

さらに選ばれた者は、己を磨き続ける資質を問われるのだ。


会話を聞きながら、烈火は胸の奥がざらつくような違和感を覚えていた。

真白のために集まったはずなのに、誰も真白について口にしない。

むしろ休憩中は準師範同士のおしゃべり(情報交換)|に花を咲かせている。


「気持ちわりぃ……」


思わずつぶやいた烈火に、橘が驚く。


(狸寝入りか……)


文句を言おうとしたその時、銀夜が近づき「お前の番だ」と告げた。

呟きで狸寝入りが露見した烈火は、盛大に舌打ちをしながら立ち上がる。


「あの振る舞い、どうにかならんのか。」


汗を手拭いで拭きながら銀夜は蒼真を睨む。

苦笑を交え、声を落として蒼真は答えた。


「烈火にとって、準師範とは鎖のようなものです。

 でなければ、自分の思うままに振る舞ってしまうでしょうから。」

「ならばしっかり鎖を手にしておかねばならんだろう。」


銀夜の追及に、蒼真は再び苦笑し、静かに否定した。


「それは、私の役目ではありませんよ。」


ドン! ドン!


衝撃音が鍛錬場に響き渡り、茶々の悲痛な叫びが重なる。

「烈火様! おやめください!!」


一瞬、全員の心臓が跳ね、動きが止まった。

真白、茶々、烈火――三名が今、鍛錬場で由々しき事態に直面している。

朝の静寂を切り裂く音は、緊張と焦りをより鮮明に映し出していた。




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