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書術道  作者:
ー朱雀編ー
27/53

22.緊急招集の意




「――真白を一年人質として寄こせ、とな。」


「絶対ダメです!!」


それまで話についていくのに必死だった茶々が、弾かれるように立ち上がった。

顔は真っ赤に染まり、握った拳が小刻みに震えている。


「絶対、絶対にダメです!そんなわけのわからない場所に、一年も人質なんて…

 危険です!反対です!」

まるで駄々をこねる童子のように、同じ言葉を繰り返す。

(珍しい……)

真白の師として心配なのは当然だが、ここまで感情を露わにする茶々は滅多に見ない。

紫織は、火夜がこの反応をどう受け止めるか測りかねていた。


「もちろん、公には“人質”ではなく“交流のための一年間の修行”という形にする。

 ただし護衛は付けない。

 協力を仰ぐ立場である以上、それは許されん。

 真白ひとりで行かせる。」

「でも、何も真白じゃなくても……!」

「姉を捜しているのは真白自身だ。

 要の役を与えねば本人も納得せんだろう。

 それに今の位は一級。上位有段者だと青龍の里の者に間者と思われる可能性が高い。

 青龍に行くなら一段は必須だが、真白なら早期に取得できる。

 だから――一段を取ったらすぐに修行へ向かわせる。」

「しかし……」


泣き出しそうな顔で、なおも反論の言葉を探す茶々。

だが火夜は珍しく、その声を冷たく断ち切った。

火夜が茶々をこう扱うのは、本当に珍しい。普段は誰よりも甘いのに。

茶々が入学と同時に準師範に抜擢されたのも異例だし、銀夜も紫織も彼女を可愛がってきた。

それなのに“真白なら早期に取得できる“という発言。

これはつまり励ましなどではなく、早急にとらせよという命令だ。

空文字の難易度がわからない火様ではないのに無茶だとも思う。


――そもそも、今日の議題は「他里の協力を仰ぐか否か」でも、「真白を一年人質として行かせるか否か」でもなかった。

火夜はすでに決めていたのだ。真白を一年、青龍に送ることを。

そしてそのために――


「真白に一段の“空文字”を、早急に取得させよ。」


準師範全員への命令通達のための招集だった。


畳を打つように重いその言葉に、場の空気が一変する。

紫織は息を詰めながら理解した。

――今日の招集は、最初から結論ありき。

真白を青龍へ送るための、ただの布石に過ぎなかったのだ。

紫織が準師範となって二年余り、ひとつ確信していることがある。

火夜は基本、人の話など聞かない。

聞くふりはするが、結論は最初から決まっている。

ただ一人、例外がいるが――


視線をそちらへ送ると、ちょうど目が合った。

にこりと笑えば、同じように返してくる。

今まで一言も発していない男――朱宮 陽斗。

名門朱宮家の出で、長年師範を務め、準師範三名からも厚い信頼を得る。

欠点らしい欠点のない人物。

……だからこそ、紫織は彼が気に入らない。

銀夜も茶々も、きっと同じだ。

理由は単純。嫉妬。

火夜がただ一人、耳を傾ける相手なのだから。

一度、銀夜が恋人かと尋ねたことがあったが、火夜は笑って否定した。

笑ったこと自体が意外で、嫉妬はさらに深まった。




※※※※※




一刻ほどで緊急招集は解散となり、帰路に就く。

紫織はすぐに茶々へ声をかけた。


「真白の部屋に行くなら、私も一緒に行くわ。……様子が気になるの。」


そう言ってから、二人きりにさせた方が良かったかと少し後悔する。

茶々は真白に先ほどの件を伝えなければならない。自分がいない方が話しやすいかもしれない。

だが――今の茶々には、放っておけない危うさがあった。


小さな声で了承が返り、二人は真白の部屋へ向かった。




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