20.緊急招集
「突然呼び立ててすまない。」
大広間を見渡す火夜の低い声に、準師範以上の面々が一斉に姿勢を正した。
ただ一人、壇下の右端で胡坐をかき、あくびを噛み殺す男を除いては。
大広間の最奥、一段高い壇上には、師範にして学院長である火夜。
その右脇に控えるのは、もう一人の師範――朱宮 陽斗。
赤黒い短髪と大きな瞳が印象的で、派手な顔立ちに似合わず落ち着いた佇まいを見せている。
だがその笑みの奥には、時折やんちゃな光が潜んでいた。
壇下左列には、女性準師範が三名。
銀夜は背筋を伸ばし、厳しい眼差しを烈火に向けている。
紫織は感情を抑えた表情で視線を火夜に注ぎ、茶々は緊張から指先に汗をにじませていた。
右列には、男性準師範三名。
奥から蒼真、橘、烈火。
青炎 蒼真。
大人びた穏やかな顔をした青年で、齢は二十五。
黒い徳利の袖口をそっと直しながら、冷静な目で壇上を見つめていた
朱雀の里の人間にしては珍しく、苗字の通り青い髪をしている。
銀夜と同じ苗字、青炎である。
暁炎 橘。
鮮やかな橙・桃・山吹の三色の髪と装飾品が目を引く、齢は十三の少年。
はだけた胸元から痣が見える。
くりっとした瞳が特徴的で、少女を少し思わせる愛らしい顔をしている。
鮮やかな三色の髪が灯りを受け、きらきらと揺れる。
その幼い顔立ちに似合わず、どこか落ち着きはらっている。
轟 烈火。
齢は二十二。
左目と上半身を包帯で覆い、赤と橙の混ざった乱れ髪から覗く瞳も鋭い。
ふてぶてしい座り方からも近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
「……面倒だ。さっさと始めようぜ。」
胡坐をかき欠伸しながら、少し投げやりに言った烈火。
銀夜は眉間にしわを寄せて叱責する。
「貴様……火様の御前でその態度、恥を知れ。」
反論しかけた烈火の口を、陽斗が柔らかい声で塞いだ。
「烈火。」
穏やかな響きに似合わず、その目には絶対の圧があった。
烈火は舌打ちを堪え、しぶしぶ頭を垂れる。
その空気に、茶々はさらなる緊張で手汗をかくが、紫織、蒼真、橘は平然として動じない。
緊張が走る中、火夜は動じず口を開いた。
「皆、覚えていよう。七夕の夜、森の火災にて一人の少年を保護した件を。
記憶を失い、姉の存在だけを口にしたその少年に、真白と名を与え、茶々を師とした。
彼はいま一級の位にあり、だが姉の行方はいまだ知れぬままだ。」
静かな言葉に、場が息を潜める。
火夜はさらに続けた。
「本日、真白が記憶の一部を取り戻した。
その姉は病床にあり、寝たきりであったという。
ならば、火を放った上で連れ去られた可能性が高い。
里外に逃げたのであれば、他の里の者、あるいは外で生きる者の仕業と見るべきだ。」
一同に衝撃が走る。
紫織と茶々だけが静かにうなずき、すでにその覚悟を共有していた。
その言葉に、先ほどまで動じなかった蒼真と橘の表情にも、わずかな動揺が走った。