19.さらなる事実
「なら、一刻も早く空文字を習得せねばな。」
仰向けになった真白に、その言葉を降らせたのは――火夜だった。
ああ、僕はいつもこの方を見上げている……。
見上げるしかない、神にも等しい存在。
その、憧れと言ってしまっては恐れ多い思いが胸を駆け抜け、真白は慌てて身を起こした。
「火様、そのお言葉の真意とは……」
紫織が恭しく頭を下げ、問いかける。
「面を上げよ。
真意は、言葉のとおりだ。
先ほどの話は少し聞かせてもらった。」
火夜は静かに告げると、ゆるやかに腰を下ろす。
茶々が慌てて座布団を差し出した。
簡潔すぎる物言いに三人は困惑するが、火夜は続ける。
「姉上が連れ去られたとは考えてはいなかった。
だが、里の外へ出た可能性はあると見て、これまで探させてきた。
それでも見つからぬ……となれば、もはや人の手に攫われたと見るべきだ。
ならば真白、お主自ら探しに行かねばなるまい。
そのためには、まず空文字を身につけることだ。
段を持たぬ者に、里外外出の許可は下りぬ。」
火夜が、すでに姉のために里外まで捜索していた――その事実に真白は驚く。
胸の奥に熱が広がる。
火様が、僕のためにすでに動いてくださっていた……。
その事実に感謝で震えると同時に、情けなさで喉が詰まる。
自分は、何一つできていなかったのだ。
「一般人が里外に出た可能性がある以上、無視はできぬ。
ゆえに探してきたが……もし攫われたのなら、もはや朱雀の里だけの問題ではない。」
その一言に、場の空気が一気に張り詰めた。
紫織と茶々の表情にも、その重大さが色濃く刻まれる。
たまらず紫織が懇願する。
「火様、準師範以上の緊急招集を進言いたします。」
「そうだな。頃合いだと思っていたところだ。
私からも報告がある。
真白、お主は本日と明日、心身を休めよ。
紫織と茶々には、後ほど招集を知らせる。
……邪魔したな。」
その言葉に、紫織と茶々の顔が凍りついた。
準師範以上の緊急招集――就任以来、二人にとって初めてのことであった。
そして真白の胸にも、その言葉は重くのしかかる。
準師範以上の緊急招集。
そんな大事に至ってしまったのか。
自分以外の高位者を巻き込んでしまったのに、渦中の自分は参加できないもどかしさ。
準師範に今日明日で成れるはずがないことはわかっている。
だからこそ――せめて空文字を習得し、里外の捜索には必ず参加しなければ。
真白の胸に、焦りの炎がますます燃え広がっていった。