18.あの日のこと
「あなたたち、本当に似てるわね。」
口元をわずかに上げる紫織の言葉に、思わず頬が熱くなる。
紫織は顔色が戻った真白をそっと起こし、手拭いで額の汗を拭った。
「……七夕の日のこと、思い出したって本当?」
「あ、はい……」
「話せる?」
柔らかな声音に促される。
正直、思い出すのは怖い――けれど姉上の行方のためなら。
目を閉じ、あの日の光景を呼び起こす。
「あの日……燃えてて……。
姉上に“七夕まつりには行くな”って言われてたのに、行ってしまって。
そしたら家の方から煙が……。
慌てて帰ったら、森も、家も、全部燃えてて……。
姉上は病気で寝たきりだったから……僕が……僕が――!」
「真白の家に、遺体はなかったわ。」
後悔をにじませる言葉を、紫織がはっきりと否定した。
真白は息を呑む。その沈黙を埋めるように、茶々が穏やかに口を開く。
「真白、あのね。
あの日、オイラたち準師範は火様からこう聞いている。
七夕まつりの日に森で火災があり、火様と銀夜が駆けつけたら、燃え盛る家の前で泣いている真白を保護したって。
周囲に人の気配はなく、その後、気を失った真白から姉の存在を聞いて、みんな驚いたんだ。」
紫織の顔にも困惑が浮かぶ。
「お姉さまは、病気で寝たきりだったのよね?」
「はい……そうです。」
「そうなると、火事は単なる事故ではない可能性があるわ。」
「!!」
「私たちは、動けると考えてどこかに逃げたと思っていた。
火様の書術で広範囲を探したけれど見つからなかったから、人里で保護されている可能性が高いと判断していたの。
でも――もう四か月も成果がない。
なら、新しい可能性を考えなければならないわ。」
「……新しい可能性?」
「お姉さまが、誰かに連れ去られた可能性よ。」
喜びよりも困惑が先に立つ。
脳が理解を拒み、真白は布団の上に崩れ落ちる。
罪だと思い込み、口にするのも怖かったあの日の記憶――それが根本から覆された安堵と、思いがけない希望。
感情が交錯して胸が苦しくなる。
「よかったね、真白! お姉さま、生きてるかもしれない!」
茶々の声で、ようやくその言葉が喜びとして胸に染み込む。
病床の姉、腰まで伸ばした白い髪。
自分と同じ色の髪を、毎朝、梳き、結ってくれた。
「これくらいしかしてあげられなくてごめんね」と呟く姉に、どうすれば笑ってもらえるか、そればかり考えていた――。
そんな姉が、どこかで生きているかもしれない!
「なら、一刻も早く空文字を習得せねばな。」
仰向けの真白に、その言葉を降らせたのは――やはりこの人だった。