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書術道  作者:
ー朱雀編ー
23/53

18.あの日のこと




「あなたたち、本当に似てるわね。」

口元をわずかに上げる紫織の言葉に、思わず頬が熱くなる。

紫織は顔色が戻った真白をそっと起こし、手拭いで額の汗を拭った。


「……七夕の日のこと、思い出したって本当?」

「あ、はい……」

「話せる?」


柔らかな声音に促される。

正直、思い出すのは怖い――けれど姉上の行方のためなら。

目を閉じ、あの日の光景を呼び起こす。


「あの日……燃えてて……。

 姉上に“七夕まつりには行くな”って言われてたのに、行ってしまって。

 そしたら家の方から煙が……。

 慌てて帰ったら、森も、家も、全部燃えてて……。

 姉上は病気で寝たきりだったから……僕が……僕が――!」

「真白の家に、遺体はなかったわ。」


後悔をにじませる言葉を、紫織がはっきりと否定した。

真白は息を呑む。その沈黙を埋めるように、茶々が穏やかに口を開く。


「真白、あのね。

 あの日、オイラたち準師範は火様からこう聞いている。

 七夕まつりの日に森で火災があり、火様と銀夜が駆けつけたら、燃え盛る家の前で泣いている真白を保護したって。

 周囲に人の気配はなく、その後、気を失った真白から姉の存在を聞いて、みんな驚いたんだ。」


紫織の顔にも困惑が浮かぶ。


「お姉さまは、病気で寝たきりだったのよね?」

「はい……そうです。」

「そうなると、火事は単なる事故ではない可能性があるわ。」

「!!」

「私たちは、動けると考えてどこかに逃げたと思っていた。

 火様の書術で広範囲を探したけれど見つからなかったから、人里で保護されている可能性が高いと判断していたの。

 でも――もう四か月も成果がない。

 なら、新しい可能性を考えなければならないわ。」

「……新しい可能性?」

「お姉さまが、誰かに連れ去られた可能性よ。」


喜びよりも困惑が先に立つ。

脳が理解を拒み、真白は布団の上に崩れ落ちる。

罪だと思い込み、口にするのも怖かったあの日の記憶――それが根本から覆された安堵と、思いがけない希望。

感情が交錯して胸が苦しくなる。


「よかったね、真白! お姉さま、生きてるかもしれない!」


茶々の声で、ようやくその言葉が喜びとして胸に染み込む。

病床の姉、腰まで伸ばした白い髪。

自分と同じ色の髪を、毎朝、梳き、結ってくれた。

「これくらいしかしてあげられなくてごめんね」と呟く姉に、どうすれば笑ってもらえるか、そればかり考えていた――。

そんな姉が、どこかで生きているかもしれない!


「なら、一刻も早く空文字を習得せねばな。」


仰向けの真白に、その言葉を降らせたのは――やはりこの人だった。




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