17. ぬくもり
朝餉の間、紫織のぬくもりを心と体に感じながら、茶々は紫織という存在を、眩しすぎる光ではなく、春の陽だまりのようにやわらかく受け止められるようになっていた。
やがて朝餉を終えると、茶々は“光”――紫織に、まっすぐ向き合った。
「……オイラ、いつもだけど、話すのが得意じゃなくて。
真白に対しても、きっと言葉が足りなかった。
でも……姉さまがオイラにしてくれるみたいに、ただ寄り添いたかった。
答えを与えるんじゃなくて、自分で考える力を、真白にも持ってほしくて。」
「……うん。」
「でも、何も言わないことで、逆に真白を追い詰めてたのかもしれない。
その前に、もっとちゃんと、真白との関係を築かなきゃいけなかったのに……!」
「……うん。」
しっかり紫織の目を見て話していたはずなのに、茶々の視界はだんだんと滲んでいく。
紫織がそっと、その手を握った。ぬくもりが、心の奥までやさしく届いてくる。
「茶々さんは、何も悪くありません。」
――いつから目を覚ましていたのか。
真白が、静かに口を開いた。
「……以前、灯の書術を見たとき、とても美しくて、優しいと感じました。
それと同時に、これは茶々さんの心が形になったものなんだろうなって思って。
だから、言葉がなくても、茶々さんがとても優しい人だって、僕は知ってます。
その想いに応えたくて……勝手に、無茶しちゃっただけなんです。」
「……」
「でも……さっきは、七夕の日のことを思い出して、それがとても怖くて。
だから、それは……茶々さんのせいじゃありません。」
あの日、灯の書術を見たあと、真白は自分の未熟さに打ちひしがれて泣いていた。
今は、茶々が自分の“師”としての未熟さに打ちひしがれている。
そしてあのとき、茶々は真白の手を、確かに握っていたではないか。
今の紫織と、あの頃の自分が重なって見えた。
「僕も、話すのはあまり得意じゃなくて……。
茶々さんには、たくさん心配をかけてしまったと思います。
本当に、申し訳ありませんでした。」
――真白と自分は、似た者同士だったんだ。
「なあんだ……」
安堵の笑みが、茶々の口元にこぼれる。
似た者同士なら、導く必要なんてないのかもしれない。
ただ隣に立って、ともに歩いていけばいい。
それが、オイラなりの“師”のあり方なのかもしれない。
「姉さま。オイラ、一応ちゃんと“師”としてやれてたみたいです。」
紫織は、静かに微笑んでいた。