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書術道  作者:
ー朱雀編ー
20/53

15.炎の中に




大量の脂汗を額に浮かべ、その場にへたり込む真白。

肩で息をする彼に、茶々がそっと手拭いを差し出す。

真白は無言でそれを受け取り、顔を拭った。

苦しげなその様子に、茶々は声をかけられず、ただ黙って隣に腰を下ろす。

言葉はなかった。だがそれがよかった。

茶々にとっては、どう声をかけていいか分からずに取った行動だったが、真白にとっては、その沈黙こそが、なによりありがたかった。


肩が、触れた。

茶々の右肩と、真白の左肩。

触れたところから、茶々の“熱”が伝わってくる。

体温ではない。念の熱だ。

あたたかく、穏やかで、やさしい熱――


真白はそっと目を閉じ、はじめて書術を使えた時のことを思い出す。

あの時は火夜様の念が自分に伝わるのをはっきりと感じた。

荒々しく、激しい熱だった。

今、肩越しに伝わるのは、それとは対照的なあたたかな熱。

茶々の熱が、自分の中にゆっくりと流れ込んでくるように思えた。

肩から入った熱が、胸の奥へ、腹の底へと巡っていく。

そこに、小さな炎が灯る。

穏やかに、けれど確かに、静かに燃え始める。


 


――まだだ。もっと強く。もっと大きく。

空文字を使うには、それでは足りない。

もっと激しく、もっと熱く――!


炎の熱さ。勢い。

木の焦げる匂い。鼻を刺す煙が肌にまとわりつく。


想像の中で、光景が切り替わる。

燃え盛る森。その中心、ひときわ激しく燃える一軒の家。

その家に向かって、自分は――叫んでいた。


「……ねうえ! あねうえええっ!!」


その声は、叫びとも、嗚咽ともつかない。

けれど、確かに「姉上」と呼んでいた。

それがわかるのは叫んでいるのが自分だから。

あの家にいたのは、姉上だ――


「真白! 大丈夫!?」


茶々の声が、現実に引き戻す。

全身が冷たい汗で濡れていた。

呼吸も浅く、顔も青白い。


「……少し、休んだほうがいいよ。

 自室に戻ろう。送るから。……歩ける??」


真白は茶々の肩を借りて、ふらつきながら立ち上がる。

意識はまだ混濁していた。


急に思い出した“姉上”のこと。

けれど、その記憶を辿るのが怖い。


――だって。




あの炎の中に、姉上が……。




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