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書術道  作者:
ー朱雀編ー
19/53

14.鍛錬あるのみ




昇段試験の課題――空文字そらもじの習得に苦戦しているのは、何も真白だけではない。

五年、十年とかかる者も珍しくなく、それは空文字の難易度の高さを物語ると同時に、神の領域とされる里外への外出が、いかに危険を伴うかを示している。



※※※※




空文字の習得が困難とされる最大の理由は、まず“念”の消費量にある。

念とは、書術を扱ううえで最低限必要とされる力。

“気”はすべての生き物に宿るが、それがある種の変異を経て“念”として顕れる者がいる。

朱雀の里に生きる者たちは、その念を“熱”として感じることが多い。

念を滑らせて発動する通常の書文字(かきもじ)に比べ、空文字は、念で道を“切り拓く”術であるがゆえに、消費量は倍以上に及ぶ。

それは単なる燃費の問題ではない。

突破するための勢い――すなわち“火力”も求められるのだ。


念の精度・量・勢いは、鍛錬によってある程度までは高められる。

だが、そこには明確な限界がある。

つまり、念にも“才能”という壁が存在する。

その壁を超えていなければ、空文字の習得は叶わない。

だが、自分の念がその一線を越えているか否かを知る手段は、鍛錬を重ね、感覚で掴むしかない。


真白に、その“才”が備わっているのか――

それを知るためには、ただひたすら鍛錬を積むしかない。

だからこそ、今日もまた、真白は外部鍛錬場に立つ。

今はただ、鍛錬あるのみだ。

 



「真白! 今日も早いね」

「おはようございます」


 


師である茶々も、もちろん鍛錬に付き合ってくれる。

真白が一級を取得し、段位取得に挑み始めてから、初めて“壁”に突き当たったのは――

およそ一月前のこと。

それ以来、二人は朝餉前の早朝鍛錬を欠かすことなく続けてきた。

しかし、進展はごくわずか。突破の糸口すら見えない。

師として、どんな言葉をかけるべきか。

茶々は、迷っていた。

そもそも、茶々自身――書術に関して“迷った”ことが一度もなかったのだ。


ある日、突然火夜に連れられて学院にやってきた。

そのまま“準師範”という役目を与えられ、

「これをやってみろ」「あれもやってみろ」と命じられるままに、ただ実行した。

そして――できてしまった。

すべてが“たまたま、できた”だけの話。

できることについてなら、多少の理屈も語れる。

だが、茶々は“できない”という感覚を知らない。

だからこそ“できない者”にどう寄り添えばいいのかが、まったく分からないのだ。

今、茶々にできるのは、こうして共に鍛錬に臨むことだけ。

それしかできない自分が――たまらなく、不甲斐なかった。


真白は黙々と、右の人差し指に()を纏わせ、空中に文字を描いていく。

その筆致は流麗で、まるで炎が空を舞うかのようだった。

だが、しばらくすると動きは徐々に鈍り、書く速度も明らかに落ちていく。

右手首を左手で掴み、無理やり押し出すように動かしても――炎は途切れた。


 


真白の額には、大量の脂汗が滲んでいた。



 

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