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書術道  作者:
ー朱雀編ー
17/53

【番外編01-05】師弟




結局、火様は茶々の書術の正体を明かしてはくださらなかった。


「意思に近い心を感じるとは、良い着眼点だ。

 今は、近からずも遠からず――とだけ言っておこう。

 答えを与えられるのもつまらないだろう?

 正体を追求せずにはいられない……それも学院生の性ではなかろうか」


満足げに火夜は笑う。

自ら探せ。そう言っているのだ。


そして、紫織が茶々の“師”に指名された。

書術学院には、師弟制度が存在する。

有段者が有級者を預かり、寝食を共にして書術と生活を教え導く制度である。

茶々にふさわしい師がいるとすれば、火夜本人しかいなかった。

だが、火夜は“師範”である。

特定の弟子を持たず、学院全体の師として在る存在だ。

本来、弟子は原則として一人。

だが今回は、あまりに異例で、特例が認められた。

紫織の“弟子”はすでに有段者となり、師の立場に移っていたことも一因だった。


それからの茶々は――まるで別人だった。


紫織と寝食を共にし、礼儀作法に始まり、身なりの整え方や言葉遣い、人との距離の取り方まで……

あらゆることを学んでいった。

もちろん、書術も。基礎から。

茶々は、理屈では理解していなかった。

だが“できてしまう”。

やらせてみると、できる。だが説明はできない。

書術学院生は、まず座学から書術を学ぶ。

だが茶々は逆だった。

すでに“体現”できている書術の理屈を、あとから学ぶ形だった。

無駄が削ぎ落とされ、動きは研ぎ澄まされ、力はさらに洗練されていった。




※※※※




準師範の交代の報せは、瞬く間に学院中に広がった。


前任者は長期休暇中で、騒ぎの渦中にはいなかったが――

はじめは、多くの不満が上がった。

だが、それもすぐにぴたりと止んだ。

理由は明白だった。


茶々は、圧倒的だった。


稽古を通じ、その力量は否応なく示された。

まさに“火を見るより明らか”。

そして、あまりの才に、多くの者が――恐れを抱いた。

それも無理はない、と紫織は思う。

実際、日々そばで見ていて、自分自身も……時に、その才に怯えることがあった。

けれど、それ以上に――

茶々の成長が嬉しかった。

書術という術の、可能性が広がっていくことに、心が躍った。

……もしかしたら、それは“見ないようにしている”だけで、

己の中にも恐れが巣食っているのかもしれない。

だが、茶々が自分を「紫織様」と呼ぶ声が、たまらなく愛しい。

日を追うごとに増していくその声に、胸が温かくなる。

まぶしいほどに素直で――まるで、太陽のように愛おしい。

もし、茶々の性格がほんの少しでも違っていたら――

この才に、嫉妬で己を焼き尽くしていただろう。


けれど。




今の彼女は、誰よりも愛しい“妹”だった。




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