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書術道  作者:
ー朱雀編ー
15/53

【番外編01-03】影




「はあっ……はあっ……」


銀夜と紫織の息が、荒くなる。


 


――そなたらの技を尽くし、茶々に一太刀浴びせてみよ。


 


火様はそう仰った。

「一太刀」と言われ、銀夜はまず素直に〝(ザン)〟を放った。

まっすぐ飛んだ斬撃は、茶々の少し手前で――黒い何かに弾かれた。


(……何だ?)


茶々は、ただ呆然と立っている。

口元も動かず、明らかに無防備なままだ。

だが、彼女を守るように弾いたあの〝何か〟――それは影のように見えた。

ただの影ではない。

本体は見えず、床や壁に沿うだけでなく空間の中にすら現れる。

影と表現するには、あまりにも不可解だった。

ちらりと横を見ると、紫織も同じ表情で銀夜を見ていた。

次に、紫織がやや威力を上げて〝(ゲキ)〟を放つ。

もちろん一太刀とはいえ、重傷を負わせる意図はない。

時間制限がない以上、相手の力量を見ながら威力を調整し、最適な一撃を与える――

それが最も賢明だと、二人は考えた。


だが、それが誤りだったと気づくまでに、時間はかからなかった。


どの攻撃を試しても、茶々を守るように現れる黒い影。

二人で同時に攻撃しても、威力を変えても、

炎以外の水・風・土属性に切り替えても、

複数の攻撃を連ねても――

どこからともなく現れ、それらをすべてはねのける。

書術だけではない。

体術による物理攻撃も試した。

しかし、すべて――茶々から一定の距離を保って、その黒い影に阻まれた。

その影は、攻撃してこない。

ただ、そこに「在る」。

影としか呼びようのない〝ソレ〟。

銀夜は九段を取得して間もないが、書術に関する知識には自信があった。

段位は単なる目安であり、何より彼女は「書術が好き」だった。

だからこそ、多くの知識を求め、自ら学んできた。

彼女だけではない。

紫織もまた、有段者としてそれに見合う知識を持っている。




「……いかなる書術か、見当がつくか?」


銀夜は助けを求めるように問いかける。

この現象の「元の字」が分かれば、策は打てる。

今は力任せに突破を試みているが――

もし元の字を分解できれば、突破の糸口が見える。


「……検討をつけようにも、情報が少なすぎるもの。

 引き出そうにも、防ぐという、それだけの繰り返し――」


紫織の言葉が、絶望のように重くのしかかる。

気づけば、策を講じ始めてから半刻が経っていた。


「……ただ、あの影からは“防御”という機能ではなく……

 “意思”のような、心を感じる気がするの」


わずかに迷ったのちに語られた言葉。

それが、彼女の直感によるものであることを、銀夜は理解していた。

紫織は、自分とは違う。

冷静に物事を分析する銀夜に対して、彼女は“感じる”ことができる。

その直感に、理由や根拠はない。

だが、それでも――その直感が正しかったという経験が、二人の間には数多くある。

銀夜は、紫織の直感に深い信頼を寄せていた。


……ただ、それを認めてしまえば――


 


書術の根底が、揺らぎかねなかった。




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