【番外編01-02】書術学院生としての性
ちょこんと座る童子。
書術学院にいるのだから齢は十以上なのだと判断はできる。
しかしそこにいる童子はガリガリに痩せ、骨張っている。
身長もその齢に似つかわしくない低さ。
制服も着ておらず里の者が着る中でも最底辺の衣を纏っている。
衣だけではなく、髪や肌もボロボロで瞳も暗く濁っている。
選ばれた才ある者が学ぶ場で異様だった。
特にこの場では皮肉にも火様と対照的になってしまっている。
下女に促され、左から茶々、銀夜、紫織の順で神の御前に座を借りる。
「彼女は茶々。先日の七夕祭りで書術の才が認められこの度入学することとなった。
才能がありすぎるが故に、九段及び準師範以外の座は似つかわしくないと判断した。
前例のないことだが生憎その座に据える以外の善策が我にはない。
前任者には申し訳ないが入替えということで退いてもらった。」
火夜の言葉を理解するのは難しかった。
はじめに懸念していた自身の降格。
それが拭えた安堵よりも今は混乱の方が遥かに勝っている。
言葉は理解できる。
しかし仰ってる内容と目の前にいる彼女が合致しない。
「前任者は数年準師範を務められていた優秀な方だと聞き及んでおりましたが・・・」
彼女は今回はじめて就任した銀夜と紫織よりも遙かに先輩で、その活躍はめざましいものだった。
火夜に異論があるわけではない。
ただ混乱の中で出た言葉がそれだった。
「銀夜が申す通り、彼女は優秀だ。
ただ誤解しないでほしい。
準師範という役は九段者の優秀者上位三名に与えられるものではない。
茶々の就任によって他二名の相性を鑑みた時、彼女と入替えという結果になっただけのこと。
三名全員の入替えの可能性も大いにあった。
彼女には今後準師範以外での活躍を期待する。」
火様にそこまで言わしめる才が、隣にいるみすぼらしい童子にあるとは信じがたかった。
自分と紫織はポッと出の茶々の補佐だと言われたのだ。
神のお言葉に怒りや悲しみなぞ感じるはずもない。
我々人間に神の意を受け入れるだけ。
それは銀も重々承知している。
「茶々殿の補佐、謹んでお受けいたします。
火様のご決断に、もちろん異論なぞございません。
ただ、火様をしてそこまで言わしめ、さらに入れ替えなどという異例の措置に至るほどの力量。
書術学院で学ぶ身としては、ぜひこの場にて拝見したいと願うのが性かと存じます。
この願い、どうかお許しいただき、叶えていただけますよう。」
静かだが凜とした通る声だった。
紫織のこんな声を聞いたのは初めてだった。
言葉は丁寧だが怒りも感じ取れるような、いわば挑発的な発言。
それに驚いたのは火夜も同じだった。
だが同時に嬉しさも感じているようで、笑顔で答える。
「いかにも。
言葉をもてあそぶより、己が身をもってその才を感じる方が、いかにも理にかなうであろう。」
そう言って火夜は茶々、と声をかける。
スッとその場に立つ茶々。
「そなたらの技を尽くし、茶々に一太刀浴びせてみよ。
手段は問わぬ。気の済むまで、存分になすがよかろう。」